70

青葉と帰宅する最中、思いもしない言葉を投げかけられた。

「秋空」

「ん?」

「中間テストの勉強会さ…無しで」

「えっ?」

「…まぁ、アレだ…色々聞くなよ。」

俺の足はその場に止まったまま、動かなくなった。

「秋空…おい…置いてくぞ」

俺はキュッと唇を噛んでから、青葉を睨んだ。

「置いて行ってるじゃんっ!!」

「はぁ?何言ってんだよ。まだここに居るだろ」

「いねぇよっ!!おまえっ!どんどん俺を置いて行ってるっ!何でだよっ!ヤダよっ!何でそんな事言うんだよっ!」

「秋空、落ち着けって」

「一人で決めてっ!一人で離れて行く気かよっ!青葉のっ青葉のバカヤローっ!」

「おっおいっ!秋空っ!!秋空っ!」

夕暮れの中…俺は真っ直ぐに走っていた。

涙を流しながら走る俺を、買い物帰りの主婦やサラリーマンが不思議そうに見ていた。

恥ずかしい!だけどっ!もう感情を抑えたり出来なかった。

青葉が離れて行く。何かを感じながら、少しずつ形を変えて。それがどんなに恐怖か、俺は今思い知ってる。

ドンッと誰かの胸に体当たりして額を撫でながら顔を上げた。

「おまえ、ほんっと良く泣くなぁ」

ぶつかった相手は冬空だった。

別段驚きはしない。何故って…

俺は冬空のマンションに向けて走っていたんだから…どこかで出会ったって、不思議はなかった。

ふわっと髪を耳にかけられて、肩がピクンと反応してしまう。

「うち来るか…おまえ、何食いたい?」

冬空は少し屈んで俺を覗き込み微笑んだ。

「…ハンバーグ…」

涙声の訴えに、冬空は一瞬きょとんした顔をしてから額の髪を撫で上げ言った。

「カッワイイなぁ、秋空」

俺は涙を拭いて、冬空の後ろを歩いた。

何も聞かないのは大人だから?

心地良いと思うのはどうしてだろう…。

きっと俺から話すのを待ってる。

冬空から少し離れてスーパーの買い物に付いて回った。

冬空にはあんまりに不釣り合いな場所で、少し面白いなんて油断してたら、積んであるオレンジを崩したおばさんの手伝いをしたり、お米を運べない老人に手を貸したりしてスーパーはあっという間に冬空のファンで埋め尽くされていった。

初めて見た時から思ってはいたが、本当に敵に回したくないタイプの男だ。

白いレジ袋は今どき有料なのに、前を歩く男はどうしてだか無料でそれを手に入れていた。

どころか、人参やじゃがいも、玉ねぎまで袋詰めの台で色んな女性たちから分けられていた。

「玉ねぎ…こんなにくれるなら買わなきゃ良かったなぁ…」

両手に持ったレジ袋を掲げて苦笑いする冬空。

「それ…いつも?」

自分でも驚くほどに不機嫌な声が漏れた。

冬空は首を傾げた。

「毎日買い物行かねぇからなぁ。そう言われてみれば、行ったら誰かしら買わなくても何かくれるなぁ…」

俺は深い溜息を吐いてゲンナリする。

「何だよ…あ、おまえもしかして妬いてる?」

「は、はぁっ?!妬いてないっ!妬いてないっ!何訳わからん事言い出すんだよっ!!」

冬空はニヤニヤ笑いながら玄関の鍵を回した。

中から冬空の家の匂いがして、さっきまでプリプリしていた俺は急に顔が火照るのを感じた。

「座って待ってろ」

冬空はキッチンに入りながら呟いた。

投稿者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です