78
マンションを出て暫く住宅街を歩いた。
会話は無くて、薄暗いのをいい事に指先だけ手を繋いだ。
触れたり、離れたりする。
冬空の指は冷たくて、それを言うと、お前が子供体温なんじゃねぇの、なんて言われた。
冬空のマンションから俺の家までは割と近くて、あっという間に別れの時間がやってきた。
立ち止まって、お互いを見つめ合う。
「傘でも持って来れば良かったな」
そんな事を言うから、首を傾げたら、冬空は耳元で小さく呟いた。
「キスも出来ない」
俺はボッと顔が熱くなり、俯いた。
「じゃ、帰るわ。また明日な」
あっさり立ち去ろうとする冬空に思わず手が伸びた。
服の裾を掴んでしまった俺は振り向いた冬空に慌てて謝ってしまう。
「わ、悪いっ…」
「ほんと…可愛いったらないな。」
冬空は俺の頭をポンと撫で
「浮気すんなよ。早く寺崎んとこ行ってこい。気が変わりそうになる。」
「冬空っ…その…大丈夫だから…俺…」
冬空が屈んで俺を覗き呟いた。
「俺は冬空が好きだから?」
「じっ!自分で言うなよっ!ムカつくなぁっ!」
「図星さされると怒るんだよなぁ、人間て。」
「冬空っ!」
「ハハ、じゃ、俺は退散します。また明日な」
頭を撫でた手が、スルッと一瞬頰に触れた。
たったそれだけ。
それだけで冬空の腕の中を求めそうになる。
ふぅ…っと息を吐いて
「うん…明日」
と手を振った。