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冬空と別れた俺は、道を渡り青葉の家のチャイムを鳴らした。
青葉が出て、勝手に上がるように言うから、頰をパンパン両手で叩いてから階段を上がった。
コンコンとノックすると、いつもと変わらないのんびりした声。
それでも俺は流石に気づいていた。
青葉が
緊張してることに。
「入るぞ~」
中に入ると、青葉はベッドで教科書を見ていた。
「中間勉強…もう始めてんの?」
俺は勉強机の方の椅子に腰を下ろした。
「ん~…あぁ…まぁな。」
「……昨日さ…」
「うん」
「春子さんがさ…」
「うん」
いい加減な返事に唇を噛んだ。
黙って俯いてしまう。
ギシッと音がして、青葉が起き上がったのが分かった。
上目遣いに恐る恐る青葉に目をやると、青葉は苦笑いしながら俺を見た。
「悪りぃ…意地悪した。」
「いや…い、いいんだ…」
「春子さんから連絡あったよ…秋空そっちに行ってないかって」
「あぁ…うん…」
「昨日は俺も秋空が怒るの分かって焚き付けたし…お詫びみたいなもん…白川んとこに居たんだろ?」
「……うん」
「…秋空……白川が…好きか?」
俺は俯いてから、息を吐き、青葉を見つめた。
「好きだ…冬空が…好きだ」
青葉は肩を竦めて、ドサッと上半身をベッドに倒した。
「男なんか興味なかったくせに…とんだ横槍が入ったもんだぜ…」
「青葉…俺、ちゃんと考えてきた。おまえの気持ちとか、最初こそ分かんなかったけど…だんだん分かるっていうか、ちゃんとしなきゃって思ってて…俺っ…青葉が好きなのは本当だよ!凄く大事で、大切で、失くしたくない。でも、それは…青葉が思ってる好きと、少し違ってて…家族っていうか、親友で、幼馴染みで、兄弟みたいな…恋人より…多分ずっと深いところで…おまえが好きなんだと思う。」
青葉は顔の前で腕をクロスにして黙っていた。
椅子から立ち上がった俺は、ゆっくり青葉に歩み寄る。
「青葉…泣いてるのか?」
ベッドに手をついて青葉を覗き込む。
そうしたら、青葉はグイッと俺の腰を抱き寄せた。
俺が乗り上げる形で目が合う。
「秋空…」
「青葉…ダメだって…」
「…あぁ…これだけバッサリ振られたら、いい加減諦めないとカッコ悪いよな…」
青葉の言葉にズキンと胸が痛む。
「キスしよ…これが最後だ。俺と秋空は…ちゃんと幼馴染みに……戻る」
「……俺からは…しないよ」
真っ直ぐ青葉を見つめると、苦笑いした青葉は俺の頰を包み囁いた。
「…大好きだ…秋空…ごめん…ごめんな…」
そう言って、唇が微かに触れるだけのキスをした。
俺はどうしてだか泣いてしまい、青葉に抱きしめられ、わんわん泣いた。
青葉はそんな俺を
ただ黙って腕の中で
甘やかした。