15
バス停に向かって2人で歩いた。
カエルの合唱と、チラチラ光る蛍の光。
暗闇にポツリポツリと灯る街灯。
「もう、バス来ないよ?」
『いや…今日はね、あと一本くるらしい。確かめたから大丈夫。バスが来るまで一緒にいるから…心配ないよ』
相葉さんはクシャっと目尻に皺を寄せる。
朝と学校終わりに一本あるだけのバス停。
もうとっくに…バスは行ってしまってる。
もう一本来る事なんて…正直あるとは思えなかった。
相葉さんと居られるなら…構わない。
そう思うと黙りこんでいた。
バス停に着いて、酷くボロい長椅子に座る。
「相葉さん…明日も…会える?」
『クフフ…もちろんだよ。和くんが望むなら、俺はここに居ようじゃないか。…待ってるから。』
相葉さんが微笑んだら、バスらしき大型車のハイビームが俺を照らし付けた。
まさか…本当にバスが…
ヘッドライトに驚いて気をとられた俺は慌てて彼を振り返る。
「相葉さ………」
プシューっとバスの扉が開く音がする。
続いて運転手が帽子のツバを摘みながら俺を覗き込んだ。
「乗らないのか?!」
「あっ!乗ります!」
慌ててステップを駆け上がる。
すぐ振り返って閉まる扉の向こう…バス停を見た。
そこは無人。
バスのポールに掴まって揺れる体を正しながら辺りを見渡した。
暗闇には誰も歩いて居ない。
相葉さん…
貴方は……
俺を抱いたんだ…
居ないはずがない。
居ないはずが無いんだよ…。
生きてる…よね?
俺はだらし無く歩みを進めて椅子に鉛の身体を座らせた。
鞄から出した携帯。
時間は……
「う…そだ…」
俺は口を手で覆った。
「そ…んなはず…」
ジワジワと何故か涙が込み上げてくる。
それを一旦必死に堪えた。
「すみません…今…何時ですか?」
運転手の所までフラフラ歩いてポールをキツく握りしめた。
「今?そこに時計が出てるだろ?いつも通り2本目の時間だよ。まぁ、今日はちょっとだけ遅れてるけどなぁ。10分程だ。許してくれよ?」
運転手は…俺が時間通りに来なかった事を咎めていると…
勘違いしていた。
時間は…あの夕方から…10分も…経っていない事になる。
俺が相葉さんに…告白した時間から…。
これは彼が言った…3本目のバスじゃない…。
手に持った鞄がドサッと音を立てて落ちた。
俺はバスの中でうずくまり…静かに涙を流した。
彼は…
彼は……。