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暫くしてからだ。
放心状態の俺の携帯が鳴った。
相手はもちろん松本さん。
「もしもし?」
(相葉くん…潰れて寝ちゃったわ)
「…うん…見てた。」
(じゃあ、俺の告白も?)
「…それは…知らない」
(冷たっ!)
「全部…消えちゃった」
(ったりまえだ!…何の為に相葉くんちに乗り込んだと思ってんだよ)
「どうすんの?そのガラクタ」
(…会えなくなるし、ニノの家に付けようか?)
「馬鹿な事言わないでよ。」
(………俺んとこ…本当に来ない?)
「潤…」
(なぁ~んてな!この盗聴器やらカメラ、捨てるぞ。いいな?)
おどける松本さんが嫌で黙っていた。
(…何だよ、ノリ悪いな。)
「捨てて良い。…俺の事も…捨ててね」
(…きっつ…)
「潤…ありがとう」
(ハハ…変な感じだ。…じゃあ…)
「潤っ!!」
返事がない。
黙ったままの松本さん。
俺は小さく呟いた。
「好きだよ。相葉さんより…早く出会ったら…俺たち…両想いだったかな?……ねぇ…何か…言ってよ」
(………じゃぁーなっ。)
電話が切れた音が
耳を痛くした。
ギュッと胸に抱いた携帯。
俺の罪は
松本さんが消し去った。
呆気なく…あまりにも、呆気なく。
だから俺は…相葉さんの家の鍵を持って、外へ飛び出していた。
走って走って走って、少し離れた陸橋の上まで来た。
流れる深い暗闇の河が眼下に広がる。
ブラックホールなんて、見た事ないけど…
多分この真っ暗な河が流れによって白波を立てる感じは、ソレと似ているんじゃないかと思った。
走ったせいで息が切れていたけど、勢いのままに橋に手をかけ身を乗り出す。
少年の頃習っていた野球を思い出す。
振りかぶって…
真っ直ぐ前に放り投げた。
河が大き過ぎて、辺りが暗過ぎて、本当にブラックホールに吸い込まれたみたいに…
相葉さんちの鍵は
手の平にはもうなかった。