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相葉さんの腕を振り払ってホームに来ていた電車に乗り込んだ。
プシューっと音を立てて扉が閉まるのと、相葉さんが扉に拳を叩きつけるのは同じタイミングで、ホームに居た駅員が警笛を鳴らして相葉さんを車体から引き剥がした。
俺は、また俯いて自分の見慣れた爪先を眺める。
会社を通り過ぎる電車に乗って、脱力しながら席に腰を下ろした。
両手で顔を覆って、ジッとしてられず頭を掻きむしる。
周りから見れば危ない奴に違いない。
呻き声にも似た怒りや悲しみ、やるせなさが身体中を這いずり回って、今にものたうち回りそうだった。
吐き気がする。
これで、会社もクビ。
これで、相葉さんとも振り出しに戻った。
お互いの存在さえ知らなかった、あの頃に。
スーツのポケットで携帯が揺れ続けている。
相手は相葉さん。
みるみる間に着信やメッセージが増えていく。
窓からはもう虹が見えない。
強く冷たい雨が、号泣するように窓ガラスを濡らした。