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masaki’s Book
吉高さんに煽られ、二宮さんの誤解もとけて、晴れてことに及んだ俺には持て余すくらいの幸せな時間が続いて、最終的に鼻血を出して幕を閉じた。
いや、あの琥珀色の瞳でジーッと見つめてくるんだ。
何を言い出すかと思えば不意打ちの名前呼び捨て承認。
おまけに俺の身体の下で、可愛い顔で雅紀と呼ばれたら…
俺は思い出しただけでツンと鼻の根元に違和感を感じる。
「相葉さん、大丈夫か?」
あれからシャワーを浴びて、ソファーに仰向けに寝っ転がっている俺にキッチンから声がかかった。
俺は鼻の根元を摘みながら苦笑いする。
『アハハ、大丈夫です。カッコ悪くてすみません。』
グラスにお茶を淹れて戻って来た二宮さんが俺の頭の側に腰をおろす。
ローテーブルにコトンとグラスを置くと、俺の髪を優しく撫でた。
愛おしそうに覗き込んでくる琥珀色の瞳にキュンとしてしまう。
「ハハ、何言ってんだよ。雅紀はカッコ悪くないよ。鼻血垂らしててもカッコよくて怖いくらいだもん」
俺は慣れない雅紀呼びと素直にノロけてくる和にドキドキしていた。
『はぁ…マジであなたが心配だよ』
「はぁ?何がだよ」
『無自覚な角砂糖だと思ってます』
髪で遊びながら和が眉間に皺を寄せる。
「角砂糖がなんだって?」
『和以外は皆んな蟻で、あなたに群らがるんですよ。あなただけが自分は角砂糖だって知らないんだ。とっても怖い事です。今まで通り、あんまり出歩かない方が良いな…なんて思ってます」
そっと手を伸ばして頰に手を重ねる。
和はその俺の手に口づけて苦笑いした。
「ふぅん…じゃあ、ここに閉じ込めてお前が一人で食べ尽くしたらいいじゃないか」
俺は目を見開く。
簡単に自然に、嫌味もなく、勿論、躊躇いなんか全くない殺し文句。
頰に掛けていた手を首に回して頭を引き寄せた。
唇を塞いで口内を堪能する。
「んぅっ…んっ」
『異論ありません』
離れた唇でそう呟くと、和は肩を竦めて見せたけど
満足そうに微笑んだ。