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masaki’s Book

和の家からの帰り道。

短い時間に詰め込まれた出会いから今現在までを走馬灯のように思い出していた。

『俺、あん時舌打ちされて良かったわ、マジで』

まん丸に浮かび上がった月を見上げて息を吐き出すと、白い吐息が空に登って消えた。

時間は深夜。

辺りにひと気はない。

俺はニヤニヤしながらスーパーの横を通り過ぎた。

家に着いたら、携帯に連絡が来ている事に気づく。

相手は職場の翔ちゃん先輩だった。

“何か俺、邪魔したかなって。大丈夫だったか?二宮先生と”

俺はその文章をソファーに仰向けになりながら何回も見返した。

『大丈夫でしたよ…の続きは、直接話した方が良いしなぁ…やっぱキモがられちゃったりすんのかなぁ…いやっ!でももう今日みたいな事、二度とごめんだよ…俺がハッキリしなかったら…和はすぐにどっか行っちゃうの…分かったしなぁ』

俺はいつの間にかウトウトと意識が途切れ、ソファーで朝を迎えてしまった。

バタバタとトーストを口に咥えてジャケットの袖を通す。

『ちっ!遅刻するっ!!』

革靴に足を放り込んで踵を踏まない程度に前のめりに進む。

なんとか両足が靴に収まると、俺は駅までを全力疾走した。

最近走ってばかりいる。

真冬なのにほんのり汗ばむ身体に嫌気がさして、ネクタイを緩めた。

いつもの電車には間に合わなかったけど、次の電車には何とか乗り込めた。

脱力するには窮屈な早朝の満員電車。

俺は吊革を握って車体の天井に苦笑いした。

オフィスには既に翔ちゃん先輩が出社していた。

「よぉ!」

俺に気付いた翔ちゃん先輩は軽く手を上げてこっちに近づいてきた。

『翔ちゃん先輩…あの…』

彼は頭のキレる人で、そのおかげかは分からないが、苦笑いして顎で喫煙所を指すもんだから、俺はしっかりソレに甘える事にした。

「なぁんか言いたそうだな、お前」

『アハ…なんでわかるんっすか?…俺、昨日も大丈夫でしたとしか送ってませんし…』

「あぁ…だからこその不自然さな。」

クスクス笑いながら、ポケットからタバコを取り出す。

一本咥えて、箱を揺すりながら飛び出した一本を俺に突き出した。

ライターで火を付けて俺にもその火を

「んっ」

と出してくれる。

頭を下げながら流れでタバコを一本頂く事になった。

二人の吐き出した煙りが喫煙所のモーターに吸い込まれていく。

「まぁ、なんだ。言いにくいかもだから、俺の憶測を語ってみようかと思うわけだ。」

『…はい』

「お前さ、二宮先生の…恋人かなんかじゃない?あの人、すげぇ俺の事睨んでたし…何が引き金かは分からなかったけど、怒って帰っちまったアレはぁ…友達の感じじゃなかったなぁ…なんて。考えすぎかな?」

俺は俯いたまま頷いた。

『実は…翔ちゃん先輩の言う通りです。俺、あの人が好きで、好きでしょうがないんですよね。あ、今までは…女性としか付き合った事なくて、なんかこういうの初めてで、正直、突然同性にこんな感情になって驚いて…でも…ちゃんと確認しました。たとえば白い目で見られるようになっても、俺、あの人が側に居なくなる事の方が怖いなぁって。あのっ!』

「何だ?」

翔ちゃん先輩は顔色一つかえずタバコを吸っている。

『そのっ…俺の事…気持ち悪いですか?』

翔ちゃん先輩は俺をジッと見つめた。

丸い瞳は目力が凄くて、俺はゴクッと唾を飲み込み、息が止まった。

「アハハッ!気持ち悪いかだって?相葉くんも中々な質問すんねぇ。…まぁ、突然言われたらビックリはしたろうけどね。でも、俺にはこうやって考察する時間があったわけ。周りにそういう人がいるわけじゃないし、気持ちを理解どうこうまでは分からないよ?ただ、気持ち悪くはないし、さっきの言葉聞いて、俺は羨ましいとさえ思ったよ。」

『うら…やましい?』

「あぁ。俺もフリーだし、彼女欲しいなぁっなんて思うわけだけどさ…やっぱピッタリくる人になんてそうそう出会えないんだ。白い目で見られたって、彼を失くす方が怖いなんて…そんな出会いをした相葉くんが、ただ羨ましいって思った。」

真剣に応えてくれる翔ちゃん先輩の話を聞いていたら、指先で挟んだ煙草の灰が頭をもたげて、その重みに耐えきれず床に落ちた。

『そんな…でも、ありがとうございます。』

「俺にも早くそんな人出来ねぇかなぁ」

ポンポンと灰皿に灰を落とし、俺に向かってニカッといつもの笑顔をくれた。

『翔ちゃん先輩なら、すぐできますよ!』

「出来た奴は余裕だよぉ~!うわぁ、なんか悔しくなって来た!俺も頑張ろ~っ!」

『クフフ、応援しますっ!』

「頼むなぁっ!ハハ!じゃ、仕事戻るか!」

『はいっ!』

その後からの翔ちゃん先輩の態度は、今までと何も変わる事はなかった。

俺はただ、自分が憧れていた人がやっぱり憧れただけある器のデッカい人で、胸が熱かった。

翔ちゃん先輩は、俺の憧れで、最高の先輩だと

改めて再確認したと共に

正直な話、ホッとして

酷く安心していた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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