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nino’s Book

雅紀が帰った深夜。

開いたパソコンには”寂しい”の文字。

実際の俺は寂しいところなんて無くて、この書き出しだと本気で本になる事はないだろうと感じていた。

吉高さんが雅紀に手伝いをさせるなんて馬鹿な事を言っていたけど、これじゃあ逆効果に近い。

俺は満たされている。

多分、人生の幾つかあるターニングポイントの一つには居る自信があった。

暗がりでぼんやりパソコン画面を眺めながらカーソルをバックさせて1文字ずつ消していく。

真っ白になった画面。

今の自分。

“何か欠落していた物を埋めて貰ったような、孤独とは無縁の現状。

それは、深い依存への恐怖を孕んだ

幸福。

だからこそ、寂しさが近い気さえした。

隣りにいる君に

僕は酷く怯えている。

君の距離が近づけば近づく程に…

君が僕を嫌いにならないか、君が僕を捨てないか、日がな一日そんな事ばかりを考えている。

君にそれを告げると、君は参ったなぁと言わんばかりの苦笑いで

『そんな寂しい事をいわないで』

と言った。”

書き出し始めた俺の指先は止まらなかった。

どんどんと行数を増やし、閃いたストーリーは頭の中でどんどん展開されていく。

プロットも作らず書き進めるなんて無謀なやり方さえ久しぶりだった。

自分の中で、雅紀との出会いが何かを紐解いていく。

俺は孤独で、寂しいふりをしていた。

他者からの何もかもを逆手に取り、相手を羨んだ。

ただ、それが最善で一番楽な方法だったからだ。

雅紀と知り合って、ほんの些細な事が一々気になる。

それは死ぬ程幸福で、同時に恐怖で、種類の違う寂しさを伴った。

本当に大切な人が居て、その人が側に居ないのは寂しい。

どんな時も側に居たいものだ。

そして、もし、その大切な人が居なくなるかと思ったら…

俺は寂しくて寂しくて仕方なかった。

あの笑顔が、俺の居なくなった場所で続く事も、あの鼻にかかった声が耳に触れる事もなくなるなんて…

それこそ寂しさで死んでしまうんじゃないだろうかとさえ感じた。

俺は、とりあえず思考回路が暴走するままに話を書き殴った。

一睡もせず朝が来て、冷える身体にコーヒーを淹れて一息つく。

テレビから流れるニュースも、家の中の空気も何一つ変わらないのに、俺はぼんやり呟いていた。

「寂しいならば…離れなきゃ良いんだ」

思わず声に出たワガママに苦笑いして、残りのコーヒーを煽った。

夕方まではまだまだ時間が残ってる。

それまでに一区切りつくところまで…

一区切りつくところまで書き切れたなら、雅紀に話したい事がある。

夕方、陽が落ちた冬の空の下を歩いて

君に出会えたら

話せないはずはないんだ。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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