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翌朝、良く眠れないままベッドから起き上がった。
朝飯の匂いに釣られてダイニングテーブルにつく。
キヨさんが朝から豪華な和食を用意してくれるのはいつもの事で、俺は目を擦りながらハッと気づいた。
いつもは俺の分だけが並ぶテーブルにもう一人分の朝食が湯気を立てている。
なのに、キヨさんはそれを下げ始めた。
『ちょっと!キヨさん?何で?アイツは?』
キヨさんは苦笑いして首を左右に振った。
それから、寂しそうに
「要りませんとだけ申し付けて、随分早くに出て行かれました。…学校は今日はお休みだし…バイトなどには早い時間ですよねぇ?」
アイツっ!キヨさんには心配かけんなっつったのに!
『あぁ…友達と約束?集まりとかじゃないかな?キヨさん、あんまり気にしないで。アイツの生活リズムもその内分かるはずだから』
「はい。お気遣いありがとうございます、坊ちゃん」
『いや、こっちの事情でキヨさんには迷惑かけるよ…悪いね。』
「坊ちゃんも大きくなられましたね…キヨは嬉しいです。」
『ふふ、キヨさんのおかげだよ。』
俺がずっと…寂しくないように頑張って来てくれたんだ…あんなろくでもない親父のせいで…周りはみんな不孝になって…
『御馳走様でした。じゃ、行ってきます』
俺はバイトへ行く準備を済ませ、家を出た。
だだっ広い豪邸に、キヨさんとたった二人だった。
ずっと。
だから、アイツが母一人子一人だったんだとしたら…少しくらい気持ちが分からない訳じゃないんだよ…。
大学で友達を沢山作る為、金持ちだという事を伏せている。
学校にも電車で通うし、バイトだって普通にしてる。
いつか親父の会社を継がないとならないと分かっていても…今の俺は、自由でいたい。
なるだけ親父と違う世界に居たかったからだ。
確か、アイツ…今年の春から俺と同じ大学だって親父が言ってたな。
休みがあけたら、大学ですれ違ったりするんだろうか…
てか…アイツあんなんで友達居るのかな…
昨日の雨はすっかり上がっていたけど
強く冷たい風が吹いていた。