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翌日からは、キヨさんが怪しむような事もないほどに俺達は兄弟を演じた。

少しの喧嘩と、少しの譲り合いを織り交ぜて、ごく自然にごく普通に。

大学が終わって、バイトに向かう。

道中で偶然にも翔ちゃんとバッタリ出会して、あの日の話が始まった。

『で、告白は?うまくいった?』

翔ちゃんは恥ずかしそうに頭を掻く。

『クフフ、その調子だと上手くいったんだね』

「…あぁ、まぁな…喜んでくれたよ…俺から告るって思ってなかったみたいだしな…ただ、アイツさぁ…」

さっきとは真逆の曇った表情を浮かべる翔ちゃん。

『大丈夫?』

「ぁ…うん…アイツ、寝るとうなされるんだよ…話聞いてたら、もうずっと長い事、熟睡とかして無さそうなんだよな…」

『…不眠症…って事?』

歩道を歩く俺達の真上に垂れ込めた雨雲が怪しく広がり出す。

忙しい調子で早く流れ動くその雲を見上げると、ポツリ、ポツリと雨粒が額を打ってきた。

『ヤベッ!翔ちゃん、これ来るよ!』

「ん?あぁ、本当だ!急ぐか!」

俺達はリュックを頭に走り出した。

ポツポツ振り出した雨はあっという間にザァザァと音を立てる程に強さを増してアスファルトを打ちつける。

「んだよ~っ!今日雨っつってたかぁ~?!」

『いやっ!聞いてないなっ!うっわぁ!マジビショビショんなるよっ!』

俺達は何とかバイト先のカフェの裏口の軒下まで滑り込んだ。

お互いの様子を見て肩を落とす。

『走った割には全体的にアウトだね』

「あぁ~ぁ…マジで無いわぁ…つっめたぁ…」

肌に張り付いたシャツを引っ張る翔ちゃん。

俺は髪の先から滴る雨粒を見て苦笑いしてしまった。

『着替える仕事で良かったよね』

「おっしゃる通り」

スタッフルームに入って、タイムカードを押した後、着替えを済ませ狭い軒下で二人タバコを吸った。

『さっき言ってたうなされるって話…』

「あぁ…うん、多分…今までの生活がさ…原因…かな。」

『…そっか…』

「そっちは?」

『え?ぁ…あぁ、うん…翔ちゃんとおーちゃんにだけは…話そうと思ってた…ちゃんとさ、全部。』

フーッと煙を吐き出した翔ちゃんは俺を見て肩を竦めた。

「かしこまんなよ…正直、俺だって男と付き合うことになるなんて思って無かったしなぁ…ほら、あれだよ、事実は小説よりも奇なりとか言うじゃん?おまえ、弟と…うん…そうなんだろ?」

俺は翔ちゃんの言葉に俯いた。さっき雨に打たれて濡れた髪がしっとり視界に入ってくる。

足元にできた大きな水溜まりに映る庇を見て苦笑いするように鼻で笑ってしまった。

『フフ…ほんっと…小説の方がマシなくらいだよなぁ』

トンと弾いた翔ちゃんの持つタバコの灰がジュッと水溜まりで音を立てる。

「………好きなら…良いんだよ」

翔ちゃんはそれだけボソリと呟いて流れの早い雲を見上げ、先に店に戻ってしまった。

取り残されたような気持ちになって、タバコの火を灰皿代わりに置かれた缶の中にねじ込む。

雨足はまた一段と強まって…

まるで潤くんがうなされる夢を

見ているようだった…

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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