10

睡眠時間はたった2時間。

一駅歩いて戻った分が睡眠時間を明らかに削らせる結果になった。

一限を必須にした俺は馬鹿だと思う。

ピピピ! ピピピ! ピピピ!

「ぅゔ…」

携帯のアラームは容赦なくスヌーズ機能を活用して俺を叩き起こす。

ぼろぼろのアパートはさくら荘という名の昭和レトロ…いや、もう廃屋みたいなアパートだ。

そこの2階の角部屋は明らかな事故物件で、家賃は三万円だった。霊感なんてものはない。俺は屋根さえ有れば生きていけるとそこに即決で入居を決め、大学生活をスタートさせた。

畳が昨日から降り続いた湿気を吸って、ギシッと床を軋ませ、いつか一階の住人の元へ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤする。

歯を磨いて、髪を直して小さな冷蔵庫からコーヒーのペットボトルを取り出した瞬間だった。

ピンポンっと、伸びのないチャイムが鳴り響く。

時間にして七時を回った辺りだ。

眉間に皺を寄せながら薄くもぼろぼろの玄関扉に付いた覗き穴を片目で覗きこんだ。

すると向こうもスコープに目を当てているのか、眼球らしきものがキョロキョロしていて、俺はヒッと短い悲鳴を上げ後ろにのけぞった。

「誰だよ、こんな早い時間に…」

扉の向こうの人物は我慢出来ずか、チャイムじゃなくノックを始める。

コンコン コンコン

「こわ…」

そう呟いて観念し、扉を開けた。

「よぉ!ここで合ってた!」

一瞬ポカンと口が開き、うんと頷きながら玄関扉を閉めようとする俺。

見間違いか??

いや、たしかに彼だ。

「ちょっ!ちょっと待てよっ!」

高そうな革靴がガンと扉に挟まる。

俺はハァ~ッと長い息を吐いて、挟まった靴を無視しながら扉を閉めようとした。

「天ちゃん!痛いっ!痛いって!ちょっ!開けてっ!」

俺は扉で靴を挟んだまま言った。

「何でっ!はぁっ?!何っ?!燕さんそこで何してんの?」

「天ちゃぁ~ん、痛いぃ」

ドアノブを引く事を緩めず靴を挟みながら溜息を吐いた。

暫くしてソッと押し開くと、長いサラサラの栗色の前髪が揺れるのが見えて、情けない声で燕さんが言った。

「マジで足いてぇ」

「いてぇじゃないでしょ…何で居るんですか」

「おまえさぁ…借金してるヤツでももうちょい優しくドア閉めるよ?」

「理由を聞いてますっ!足の痛みは知りませんっ!」

「あぁっ!そんな意地悪言うならもう知らないからなっ!」

「はぁ?何子供みたいな事いってんの?!」

「だって天ちゃんがイジメるから」

鼻筋の通った横顔がツーンとそっぽ向く。

俺は脱力して呟いた。

「はぁ…わかりましたよ、どーぞ。」

玄関で言い争って体力を使った俺は諦めたように燕さんを中へ通そうとする。

そうしたら、二の腕を両手で掴まれ唇を塞がれた。

深く舌まで絡める大人なキスは腰にくる。

玄関でグラっとよろめくと、離れた唇がニヤっと吊り上がった。

トンと胸元に突き付けられた硬いカード。

思わずマヌケな声が出る。

「あっ」

「あっ…だろ?…車のシートに落ちてた。」

ペシっと突き付けられカードは学生証。

学生の俺にとっては結構大事な物だったりする。

「わざわざこれ届けに?」

「いやぁ…わざわざコレを口実に会いに」

グイと腰を引き寄せられて顔が赤くなる。

「天ちゃんてさ…童貞?」

燕さんの言葉に一気に体温が上がる。

「あっ!朝から何言ってんのっ!馬鹿じゃないですかっ!」

「ハハ!マジかよ…ラッキーだな。」

燕さんの目の色が変わった気がしてドキッと胸が鳴った。

「つっ!燕さんってさっ!バイなんでしょっ!女の子もいけるんでしょっ!俺なんかに構わなくたって」

キャンキャン吠える俺をドンと床に押さえつけてくる燕さん。

後頭部を打った俺は顔を顰めながら頭を抱えた。

「ってぇ…もぉ~っっ何すっ…燕…さん?」

燕さんは俺の顔の横に手を突いて唇を噛み締めていた。今にも泣きそうに見えて焦る俺。

「天ちゃん…ごめん、また来るわ」

「ぇ…え?ちょっと…なんっだよっ…」

一言残して、まるで生きた屍みたいに立ち上がりフラフラとアパートを出て行った。

何だこの罪悪感…

俺、何もしてないよな???

何なんだよぉ~っっ!!

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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