13

普段副店がいかに段取り良くホールを回してるか思い知る1日になった。

店長の言っていた団体は想像以上の人数で、俺たちバイトはかなりバタついてしまった。

「いやぁ、お疲れ様。みんなありがとうね!藤田くんいつも、厨房とホールの繋ぎ凄いなぁ…ま、今回は俺も勉強になったよ。本当、助かりました!お疲れ様です!」

店長が挨拶をして締めの作業が始まった。

ああいう風に店長を支えてる副店長…かっこ良いよなぁ…店長に頼りにされて…眼鏡のバイトくんのくせに…なぁんて僻んでみたり。

俺は疲れた身体のままロッカールームへ向かう。

「あ、天!ちょっと」

店長に呼び止められ、歩みを止めると

「店の前、燕さんの車止まってたから、おまえに用があるんじゃないかな?先上がって良いぞ。今日、サンキュ!」

「あ、はいっ!…じゃ、お言葉に甘えて」

俺は小さく会釈して、ロッカールームに入った。

燕さん…迎えに来てるって事?

どうしよ…俺、めちゃくちゃ汗くさいよ!

泣きそうになるのを堪えながら着替えた。

リュックを手にロッカーを勢いよく閉める。

裏口から出て、走って表に回ると、相変わらず似合いすぎる黒の細身のスーツに身を包んだ燕さんが車体にもたれ掛かりながらタバコをふかしていた。

手には携帯を持ち、何やら忙しそうに打ち込んでいる。

咥え煙草が絵になって、暫く眺めていたい気持ちになった。

それなのに、燕さんはすぐ俺に気づいて、咥えた煙草の煙から逃げるように片目を閉じながら手をあげた。

「天ちゃん!思ったより早いな」

俺は今思っていた気持ちに気づかれないように肩を竦めて見せる。

「今日は、結束力が半端じゃなかったんですよ。」

「はぁ?なんだそりゃ、運動会かよ」

「フフ、まぁそんなとこです」

「まぁいいや、寒いから乗って」

嬉しそうに子供みたいな笑顔を向けられるもんだからキュンとしたのは絶対内緒だ。

この人…まじでギャップ凄いんだけど…。

車内は相変わらず高級な革張りの香り。

煙草の匂いがついたスーツが隣に乗り込んで来る。

「行きたい場所とかあるか?」

鼻歌でも歌い出しそうにご機嫌な燕さんに、笑いながら言ってやる。

「こんな時間にどこがあいてるっていうんですか」

「んぅ~…まぁ、限られますなぁ…あ、腹減ってない?」

「あぁ……少し」

「よしっ!じゃ、榊んとこ行こう!」

「榊?」

「あぁ、クリスマスの前の晩に雪乃も一緒に飲みに行ったおじさん!覚えてない?」

俺は雪乃さんの顔を思い出してしまう。そこからゆっくり隣に居た人の顔を思い出していた。

「あ、顎髭の…」

「当たりぃ。アイツBARやってんの。ちょっとした飯も出してくれるからさ」

LINEでも送ったのか「よし!」と呟き内ポケットに携帯をしまう燕さん。

「お友達?ですか?」

燕さんは目を細めてハンドルをギュッと握った。

何だか懐かしそうな、寂しいような、それでいて俺には見えない沢山の繋がりを思い返すように呟く。

「まぁ…悪友ってヤツだな」

微笑んだ燕さん。

俺は、燕さんの何も知らない。

何も知らないから俯いた。何だか切ない。

そうしたら、車が急に端に寄せられて停車した。

不思議に思って燕さんを見たら、助手席のシートに手をついて、もう片方の手が俺の頰を包んだ。

「天、なんて顔してんの?」

そう呟くと、燕さんが顔を傾けて唇を深く塞いだ。

「んぅっ…ン…」

クチュっと舌が絡まる。

「ハァッ…ンゥッ…」

身体の力が一気に抜ける。

燕さんの柔らかな長い栗色の髪が頰を撫でる。

俺は燕さんの肩に掴まるように彼の身体を引き寄せた。

時折通る対向車のヘッドライトが燕さんの肩越しに俺を照らしつけ、その光で我に返る。

「はなっしてっ!俺っ汗臭いからっ」

燕さんは俺の首筋をペロッと舐めて囁いた。

「美味い味しかしないよ。」

息が止まるような声音が耳元で響く。

喰われる

目が合った瞬間、ゾクッと身体を何かが走った。

燕さんは運転席に身体を戻すとさっきの携帯を内ポケットから取り出した。

「もしもし、俺。やっぱキャンセル。悪い」

携帯を内ポケットにしまうと、車は静かに公道を走り出す。

いつの間にかまた降り出した雨が、路面を濡らして道路に射した信号機の光を散らしていた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です