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その日

相葉くんはいつもの時間に戻らなかった。

俺は日課のようにコーヒーを淹れて、カップを両手で包み込む。

フゥーっと息を吹きかけると、白い湯気が流れて消える。

そのまま、一口も口をつけずに…バルコニーに続く窓ガラスの向こうを見ていた。

「足跡…消えたじゃん…コーヒー…楽しみって…ぅ…嘘かよ…くぅっ…ふっ…ぅゔ…」

相葉くんの一言ずつが

俺を傷つける。

帰って来ない理由は明白で、俺は知らなくても良いパンドラの箱をこじ開けて… それで?

満足な結果だった?

悲しむ権利はある?

まるで悲劇の何ちゃらみたいに…

俺は泣いても構わない?

すっかりコーヒーが冷めて、香りもしなくなった。

リビングのソファーで膝を抱く。

膝から滲む血が、視覚から心を引っ掻いた。

ガタンと音がする。

玄関の音だと分かっているだけに身体が縮こまる思いだった。

よろめきながら相葉くんがリビングに現れてそのまま目も合わさず自分の部屋へ入ろうとする。

俺は思わず立ち上がって彼の腕を掴んで引いた。

「ぁ…あのっ」

『何ですか…疲れたんで少し休みます。…離してください』

俺は相葉くんのビー玉みたいに感情のない目から、自分が掴んだ彼の腕に目をやった。

指先の力が抜けて、ダランと手が落ちる。

相葉くんもその俺の下ろした腕を見て、暫く沈黙が続いた。

「相葉くん…」

恐る恐る声を掛ける。

相葉くんは振り返らない。

「ぁ…相葉くんっ!」

それでも彼は振り返らない。

俺は息を吸って、その背中の大きな翼ごと相葉くんに抱きついた。

「相葉くんっ!」

涙声の情けない叫び声。

相葉くんはバッと俺を振り払い、こっちを振り向くなり俺の手を乱暴に引いて部屋の中へ引き入れた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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