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少し震え始めた冬空の身体を後ろからギュッと抱きしめた。
「見えたのは…母さんと父さんだった。2人とも、真っ赤な血に塗れて、父さんが母さんを抱きしめた形で倒れてた。今だから分かるんだけど…母さんの顔は血まみれで…きっと先に母さんが撃たれたんだ…あとから父さんが…何度も頰や額を撫でた指の跡が血で付いていたからな…2人とも銃殺だった。強盗だよ…。雪が珍しく吹雪いてた日だった。まさか、自分の家族がそんな目に合うなんて、思いもしなかったな…」
「冬空…」
冬空の体を抱く俺の腕を撫でながら、静かに話は続いた。
「そこから俺は、親族の家をたらい回し。それがきっかけで一通り悪さもした。田舎が嫌で、ニューヨークに越してからは酷かったな…。生活がめちゃくちゃで…とにかくだらしなかった。ニューヨークのブリザードは気分を憂鬱にさせたし、また引っ越しを考えたりし始めていたんだ。ちょうどその頃から、母方の祖母が俺を日本に呼ぶようになった。…祖母は綺麗な人で、日本について沢山教えてくれた。何回か見た満開の桜は忘れられなかったよ。そのうち銃のない日本に安堵を覚え始めて…だから、祖母の養子になって…まぁ、色々大変だったんだけど、何とか今がある。俺の生い立ちはそんなとこだ。…とにかく…ホールケーキに大きなデコレーションは今でも好きじゃない」
フフっと曖昧に笑って、俺の前髪を撫で上げる。
「…冬空に…前髪…そうやって撫で上げられるの…好きなんだ。なんていうか…安心する…」
「あぁ…これか…父さんの…癖だったんだ…俺もこうされるのが好きだったな。俺の事も母さんの事もしょっちゅうグリグリ撫でて…」
冬空は遠い目をして、指先に絡む俺の髪を見つめた。
「俺の母さんの髪色と良く似てる…猫っ毛で、ブルネットだった。」
冬空の話を聞いて…髪なんかが愛しく思えて不思議だった。
「冬空…話してくれてありがとう。俺も…小さな頃、父さんを事故で…俺たち…少し似てるのかな…」
俺は冬空の前髪を撫で上げた。
綺麗な灰色の瞳が揺れる。
甘い香りが俺を抱きしめて、低い声は掠れて名前を呼ばれる。
背中がよれたシーツに沈んで、冬空は俺を求めた。
まるで小さな子供が母親に甘えるように
小さな子供が父親に甘えるように
怖がりながら身体を重ねている冬空を感じて、俺は目一杯、彼を甘やかした。
怖い記憶は
俺が消してやりたい
泣きたくなるような孤独は
俺が側で埋めてやりたい
冬空が好きだ。
もう…答えは変わらないだろう…。