77
シャワーを浴びて、身体中にキスマークが付いている事を知り、全身が恥ずかしいくせに嬉しい気持ちで包まれた。
冬空に会いたい。
今すぐにでも。
そんな思いが強くなる。
洗面台の鏡に映る自分の明るい髪色を撫でたり摘んだりする。
冬空が愛しい顔をしながら、俺の髪が母親の色に似ていると言った。髪を撫で上げる癖は父親譲りだったんだと、切なくなった。
冬空を知ると、胸がキュウッと苦しくなる。
もっと、もっと知りたいなんて…欲張りになる。
不思議な感覚に戸惑いながらも、自分の中で気持ちが整理されていくのが分かった。
冬空が帰るまで…シーツに包まってジッとしていた。
たまに覗いた携帯は怖いくらい静かで、誰とも繋がっていないんじゃなかと思うほどだった。
青葉から…連絡はない。
外がオレンジに染まり始めた頃、玄関で物音がして俺は寝室から飛び出した。
スーツ姿の冬空が少し疲れた顔でただいまと呟くから、俺はその胸に飛び込んで顔を埋めた。
「心細かったか?…起こしても立てないかと思ったから置いて行ったんだけど…」
俺は冬空の言葉に首を左右に振った。
「大丈夫…あのさ、冬空…青葉、来てた?」
顔を上げた俺はそう呟くと冬空から目を逸らした。
冬空はそれを許さなかった。
すぐに顎を掴んで目を合わせてくる。
「来てたよ。」
来てたという言葉を聞いてホッとした。
「そっか…」
「…今日は帰らなきゃな。送るよ」
「大丈夫…一人で」
「送るから」
灰色の瞳が寂しそうに揺れるから、ソッと髪を撫で上げて、キスをした。
「…出来るならずっと側におきたい…帰したくない。もう、寺崎や他の女にとられる心配もしたくない。」
ギュッと抱きしめられて、俺は甘い香りを吸い込みながら、首筋に顔を埋め呟いた。
「何だよ、それ…冬空らしくないな」
「俺を何だと思ってるんだ。そんな鋼のメンタルしてないからな」
不貞腐れる彼が可愛く思えてゆっくりもう一度キスをした。
「…冬空は自信満々でいなよ…」
「自信満々…ねぇ…」
片眉を吊り上げた美しい顔に、プッと吹き出してしまう。
「アハハ、冬空ってすっごい独占欲、強いのな」
「言ったろ…秋空だけ…秋空だけが特別。」
冬空は口づけながら服の中に手を差し入れる。
俺は身を捩りその手を掴んだ。
「冬空…今日は帰る。…青葉と…話さなきゃならないんだ。」
「…言うと思ったよ。」
「ちゃんと向き合わないと…青葉は…青葉は」
「大切な友達…だろ?」
俺は冬空の言葉に苦笑いした。
きっと冬空は俺が青葉と二人で会うのも、話すのも嫌に違いない。
それは痛いほど分かったけど…こればっかりは譲れなかった。
「…行こう。送るよ」
冬空は俺の髪を撫で上げて、諦めたように微笑んだ。