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泣かないで…
悲しまないで…
思い出さないで。
俺は
それを許せないから。
確か…流行ってたあの曲のタイトルは…
gimmick。
意味は確か…
仕掛け…策略…いんちき?だったかな…
相葉先生に…ぴったりだね。
俺、あの歌好きなんだ。
だけど…酷く悲しい失恋の歌。
先生は、俺に対して仕掛けも策略も甘かったんじゃない?
それはいんちきだったからじゃない?
ミイラ取りがミイラになっちゃった?
俺をこっち側にしようとしたのに…
惚れちゃうなんて、素敵な迷いが…
俺を狂わせる所まで…
計画出来なかったんでしょ?
先生は素敵過ぎた。
だから、俺は…途中まで…この流行の歌の様に…幸せだ。
最後には別れてしまう歌だから…出来る事なら…
そうならないように。
出来る事なら…このまま
幸せな二人で居ようよ。
気に入ってるんだけど…
歌の通りはどうにも癪だから。
相葉先生に馬乗りになり、首に手を掛ける。
黒いシーツはまるで棺桶みたいだった。
「先生…大好きなんだ…」
気絶していた相葉先生の瞼が痙攣して、定まらない視界を捉えるように、眉間に皺を寄せた。
そして、ゆっくり首に掛かった俺の手首を撫でるように触って、クシャッと目尻に皺を作ると…
笑った。
『疲れたよ…おまえは俺を、助けて…くれるんだな』
その呟きに…
身体中の血液がたぎって、吐き気に襲われる。
俺以外に意識を持って行かれていた事実。
俺以外に苦しめられていた事実。
俺以外になんてっ!許さないよ!
ギュッと首を絞める手に力を込めた。
馬乗りになったままカタカタと手が震える。
先生がヒューッと息を吐いて、俺の頬を挟んだ。苦しむ顔が近づいて…引き寄せられ、口づけをくれる。
涙がボロボロ溢れて…首を絞める手を…解いた。
『ゴホっ!ゴホっ!ゴホっ!…ハァ…ハァ…ゴホっ…』
「嫌だっ!!嫌だよっ!!先生っ…うっ…ぅうっ!…くっ…」
後頭部を引き寄せられ、抱きしめられる。
『殺そうとしたり…生かそうとしたり…おまえは忙しいな…』
「先生っ…」
『俺は…多分、おまえになら…どうされても構わないと思ったんだよ。殺したいくらい…好きなら…俺は幸せだな。俺を…殺す?』
俺は、大泣きしながら首を左右に振った。
「違っ….ちが….う」
『俺を…どうしたい?』
あぁ…俺ってやっぱり子供で、先生は…ちゃんと大人だったんだ。
「生き…て…俺とっ…俺と生きてっ!!ぅゔっ…うっ」
『くふふ…悪くないな。』
相葉先生は俺をキツく抱きしめた。
殺したい
殺したくない
生きたい
生きたくない
先生を前に
俺は、泣き崩れる。
息をして、動くあなたが大好きで仕方ない。
あなたが誰か他の人を思い出しても…
その長くて綺麗な指先が動いていて欲しい。
鼻にかかった声で、俺を呼んで欲しい。
片方だけ上がる口角で微笑み、その唇で、キスが欲しい。
生きて…
俺をどうか、今みたいに…
ずっと…ずっと…
今みたいに
抱きしめてください。