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揺れる…電車の中。

つり革を持つ手に力がこもる。

次は~〇〇駅

車内アナウンスが無機質に流れて、俺は足元を見下ろした。

薄汚れた革靴の爪先が、向かいの座席に座った男の爪先とあと数ミリで重なりそうだ。

俺は足先からちょっとだけ目線を上向かせ目の前に座っている男を見つめる。

サラサラと流れる髪が後ろの窓から射し込む朝陽に透けてキラキラしていた。

彼は毎朝…ジョギングをしている。

彼は毎朝…その通り道にある神社に立ち寄る。

彼は毎朝…季節のフルーツを白いキッチンで短いフルーツナイフを使って切り刻み…

唾液に絡めながら食す。

疲れているのか、こうして満員電車では携帯を弄る人の群れに囲まれて彼はいつも居眠りを選んでいた。

長い脚に纏ったスーツがいやらしくて、俺は唾を飲み込んで喉仏を揺らす。

つり革を持つ手で表情を隠しながらいつまでだってその伏せた長い睫毛を眺めていたかった。

だけど…残念。電車は駅に到着してしまう。

両隣のギュウギュウの支えが無くなってグラっと傾いた上半身がビクンと立て直される。

ガバっと勢いをつけて立ち上がった背丈は俺より高い。

『あ、ニノ!今日もこの電車だったの?』

彼は目の前に立つ俺に気づいて話しかけてくる。鼻にかかった柔らかい声が鼓膜に毒を散らす。

「あ…うん…たまたま」

俺はフイと視線を革靴に落としながら呟いて、もう一度彼の顔をチラリと覗き見た。

『起こしてくれたら良かったのに』

ニッコリ微笑む彼の名前は相葉雅紀。

先月、俺、二宮和也が意を決して転職した先の会社の先輩だ。

彼はとても優しくて…とてもカッコよくて…

とても

素敵な人だ。

「気持ち良さそうに…寝てたから」

遠慮がちにボソボソと口にする。

『わっ!閉まるよ!出よっ!』

グイと腕を引かれ、半ば彼の腕の中に収まるような形でホームに降りた。

「ごっ!ごめんっ!」

『ん?ニノ、顔、真っ赤だよ?大丈夫?』

相葉さんは少し屈んで俺の顔を覗き込んだ。

俺は肩をギュッとすぼめてフルフルと首を左右に振る。

「おっ俺は大丈夫だからっ!」

『本当?…じゃ、行こうか?』

「あ…うん」

相葉さんは気を取り直したかのようにニッコリ微笑んで歩き出した。

後に続くように後ろ姿を追いかけた。

彼の少し後ろを歩くのが好きだ。

ほんの少し後ろは、特別な場所。

彼が付けている香水が、気分を良くする程度の上品な加減で香ってくる。

俺はそれをめいいっぱい吸い込んだ。

『ニノっ!今日さ!昼飯一緒にどう?』

突然改札の手前で振り返るもんだから、掃除機ばりに吸い込んだ肺が空気を逆流させるかのようにむせ返った。

「ゴホッ!ゴホッ!ケホ…」

『ニノ!大丈夫?』

相葉さんがびっくりして駆け寄り、背中をさすってくれる。

ダメだ…そんなに触れられたら…勃起しちゃうよっ!!

俺は手を彼の胸元について距離を取った。

「大丈夫っ!ゴホッ!ちょっとむせただけ…」

『そう?』

心配そうな顔をした相葉さんは続け様に話した。

『転職したばかりで気疲れしてんじゃない?お昼さ、上手いパスタ屋見つけちゃったんだ!行こうよ!ね?』

「お、俺なんかと一緒で…良いの?」

『くふふ、ニノっていっつもそう?』

俺がパチパチ瞬きして相葉さんを見上げると、彼は笑いながら言った。

『俺なんかって、言わないの!ニノと行きたいから誘ってるんだよ?ね?行こうよ!』

「あ…ぅ…うん!」

『よしっ!決まりね!じゃ、急ご!遅刻しちゃう!』

相葉さんは洒落た腕時計を確認して改札に向かった。

慌てて俺も後を追う。

ブラウンの革靴…三揃いの洒落たスーツ。

機能性と見た目で人気の鞄。

ネクタイは…薄いグリーン。

俺はフゥーッと長く細い息を吐きながら、まるで査定でもする質屋の老人のように彼を眺めた。

うん…彼は今日も、完璧だ。

投稿者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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