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会社までの距離は駅からそう遠くはない。

デスクに着いて鞄を置く相葉さんの真後ろが俺のデスク。

広告代理店に再就職して、早一ヵ月。

仕事も順調に覚え、職場の人は優しい人ばかり。目的は別にあるとしても申し分ない環境だった。

キィっと金具が軋む音を立てて後ろの椅子が回転するのを察知する。

誰にも気付かれないようにパソコンを見ているフリをして眼球だけをギョロッと動かした。

相葉さんが真っ直ぐ行った先の主任のデスクに書類を提出しているのが見える。

うちの部署は驚く程に顔面偏差値が高い。

主任の櫻井翔さんは若いのに、超やり手で、仕事がめちゃくちゃ出来る人だ。そしておまけにとびきりのイケメンときてる。まぁ、相葉さんには負けるけど、社内の女子はこぞって櫻井主任に夢中だ。

2人が並んで楽しそうに何か話している。

俺は仕事の話だろうと無理に決めてかかり、小さく親指の爪を噛んだ。

ガリッと音を立てて爪の先がザラザラと削れる。

主任だからって…ちょっと相葉さんとの距離が近い。

相葉さんは主任と話す時、良く笑う気がする。

苛立つ感情を抑えて横目で盗み見ていた俺の肩を叩く人影。

「おはよう、ニノ。早いな」

声を掛けてきたのは松本潤さん。

相葉さんの同期だ。

「ぉ…おはようございます」

「相変わらず暗いなぁっ」

そう言って鞄から出したマイボトルでいつも謎の水を飲む。端正な顔立ちで、彼もまた社内ではかなりの人気者だった。俺なんかと違って自信の塊りみたいな人だ。

櫻井主任と話を終えた相葉さんが戻ってくる。

俺はパッとパソコンに張り付くように猫背になる。

松本さんのデスクは相葉さんの隣りだ。

『おっはよ~松潤!』

デスクに戻って来た相葉さんが松本さんに挨拶をしている。

背中越しに、パンとハイタッチのような音がして

「おはよう~」

と松本さんが挨拶を返した。

二人は同期なだけあって仲が良く、社内の噂ではモデルズとカップリング名が付いている。

確かに二人が並ぶと何をしていても絵になるし、俺なんか同じ人間だという事が恥ずかしくなる。

そして…この二人の会話は貴重な情報源だ。

パソコンを懸命に打つフリをしながら細心の注意を払って聞き耳を立てる。

「あ、相葉くん、どーなった?美羽ちゃんと」

『ん~…別れたよ。泣いてたけど、ああもガッツリ浮気してた写真見ちゃったらキツいわ。』

「まぁ…そうだよなぁ…飯とかならまだしも…」

『…うん…しっかり裸でバッチリヤッてる写真だったからなぁ…でも…あんな写真…』

「あぁ!そうだ!…相葉くんには言わないどこうって思ってたんだけどさ、彼女…うちの社内の女の子に聞いた話じゃ…あんまり評判良く無かったみたいだし…あんまり落ち込むなよな」

『へへ…見る目が無かったって事だよね。しょうがないよ』

「また誰か紹介するよ!相葉くん目当ての子、沢山いるんだぜ」

ガタンッ!!

派手に音を立てて椅子を引いて立ち上がる。

「ぅわぁっ…ビックリすんだろ!ニノ!」

「あ…ごっごめんなさい」

『あぁ、大丈夫だよ。気にしないで。松潤ももっと優しく言ってやんなよ。ただでさえ、顔に迫力あるんだから』

「はぁ?何だよ、顔に迫力って」

『アハハ!そのまんまだってば!あ、ニノ、後で昨日頼んだ資料だけコピーで出しといてくれる?』

「は、はいっ。」

俺は挙動不審にその場から離れた。

オフィスルームを出てトイレに向かう。

個室に入って後手で鍵を閉めると、両手で口を塞いだ。

飛び上がりたい程の高揚感。

ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!

どうしよう…!

いや、大成功だ!

大成功!相葉さん…相葉さんにはね

あんな女、相応しくないでしょ?

うん…相応しくなかったよ。

投稿者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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