16

お昼からは相葉さんの姿を見れないままで苛々した。

どんなに同行したかったか分からない。

櫻井主任といる相葉さんは凄く楽しそうで、俺は正直あの2人が一緒に働くのを見ているのが好きじゃなかった。

相葉さんが特別な感情を抱いて彼を思ってるのがどうにも気にくわない。たとえそれが当然の尊敬でもだ。

誰が見ても完璧な櫻井主任は俺とは真逆の世界に生きているように感じていたせいかも知れない。

誰からも無条件に必要とされる人間は少数派ながら存在する。

俺はそういう人間が大嫌いだ。

イライラした思いの矛先が爪を噛む事に向けられて、先がガタガタになるくらい傷んだ。

パソコン作業に没頭しながら、合間に携帯を確認する。

そろそろなんだけどな…。

闇商売の人間を通じて、俺はある物を手に入れようとしていた。

それは

相葉さんの家の鍵。

自分がしようとしてる事は、これ以上の最上級が見つからない悪事だと気づいていた。

でももう、誰も俺を止められない。

ガチッと音を立てて歯が鳴った。

遂に割れた爪の端からジワジワと滲む血が指先を伝って手首を汚しかける。

「おい!血、出てるぞ!」

ぼんやりその血を眺めていた俺にティッシュが突きつけられる。

相葉さんの隣りの席の松本さんが何故だか隣りで作業していて、割れた親指をギュッとティッシュで巻き付け押さえた。

「っぃ…た」

「おまえさ、なんかイラつくと爪噛む?」

長い睫毛が指先を見つめながら問いかけてくる。

「ぁ…いや、その…」

「まだ一ヵ月だろ?分かんない事あんなら聞けよな。おまえ暗いし、一人で悩みそうだから心配だわ」

俺はビクッと身体を緊張させて松本さんを見つめた。

「何?」

「ぁ…なっ何でも無いです…」

心配?俺なんかを?松本さんが?

不思議な感覚だった。

人にチヤホヤされて、明るい場所で生きてる人が、俺なんかを気にかけてくれるなんて。

イライラしたら爪を噛むクセにまで気付いてた…。

松本さんは俺の親指をティッシュで巻き付けギュッと押さえた隙間から血の止まり加減を確かめながらブツブツ呟く。

「クソ…止まんねぇじゃん…おまえどんな勢いで噛んでんだよ」

「す、すみません」

相葉さんがオフィスに帰ってきたのは、そんなやり取りの途中だった。

前髪が触れ合う距離で、俺の親指を握りしめる松本さんを見て相葉さんが微妙な表情で呟く。

『な、何してんの?松潤…』

俺は松本さんの手を包んで

「松本さん、凄く優しくて…俺、爪割っちゃって今止血してくれてるんだ…」

熱い目で松本さんを見つめた。

チラッと相葉さんを見上げると、また下唇をギュッと噛んで視線を床に落とした。

『置き薬取ってくる』

相葉さんはいつもより若干低い声でオフィスを出て行った。

入り口で櫻井主任とすれ違う相葉さんは彼に目もくれず小走りに行ってしまう。

櫻井主任はそんな相葉さんの後ろ姿を見つめながら、席にコートを掛けてネクタイをクイと軽く緩めた。

「相葉どうしたんだ?」

櫻井主任は近くを通った女子社員に声を掛けた。

「さぁ…」

「そっか…忙しい奴だなぁ、帰ったばっかなのに」

櫻井主任はドサっと椅子にかけた。

松本さんが俺の親指を握ったまま呟いた。

「もうすぐ相葉くんが薬持ってくるから我慢しろよ」

「ぅ…うん」

「ふふ」

俺はクスクス笑う松本さんに首を傾げた。

「な、何?」

「いや、ニノってさ、相葉くんにはタメ口なのに、俺にはずっと敬語だったじゃん?さっき、ハイじゃなくて、うんって言ったの、おもしれぇ奴って思っただけ」

松本さんがそう言った後に相葉さんが戻ってきた。

真っ直ぐにこっちへ歩いてくる。

『松潤、代わるよ』

「え?あぁ…じゃ後頼んだ。」

松本さんが俺の親指を離す。

巻き付いたティッシュをゆっくり剥がして相葉さんは救急箱から消毒液を取り出した。

親指をティッシュに当てながら消毒液が傷口に滲みる。

ぎゅっと相葉さんの手をキツく握ってしまう。

肩が上がって、目を固く閉じた。

「イッ…たた…」

『大丈夫?滲みるよね?』

「だ、大丈夫」

痩せ我慢しながら、スゥッと息を吸って止める。

前の方に座る櫻井主任がゴソゴソしている俺達に気付いてこちらへやって来た。

スラックスのポケットに両手を収めたままの彼は少し屈んで丸い目を光らせた。

「二宮、大丈夫か?怪我?」

「す、すみませんっ…ちょっと血が止まらなくなっちゃって」

『主任、大丈夫です。俺、手当しときますから。さっきの書類、今日中にまとめておきますね。』

「おぅ!悪いな!じゃ、頼んだぞ!先方も期待してたから。二宮、酷くなるようなら病院行くんだぞ」

「ハイ…ありがとうございます。」

櫻井主任は席に戻っていく。

相葉さんは俺を見つめて苦笑いし、

『本当に大丈夫?病院行かなくて平気かな?』

裂けた爪と肉の切れ目から流れて固まった血を眺めて呟いた。

「ぁ…うん、大丈夫。良くなるんだ…ありがとう、もう、血も止まったから。」

軟膏を塗ってガーゼを当て、グンと伸びる包帯でクルクルと親指を巻かれる。

長い指が俺の手を触りながら丁寧に手当してくれた。

「ありがとう」

『…うん』

「俺、松本さんにお礼言いに」

席から立ち上がると、相葉さんが救急箱を抱えて一緒に立ち上がった。

『俺も一緒に行くよ』

「え?…だ、大丈夫だよ?俺、一人でも」

『あ、ほら!これ、片付けに行くついでだから』

相葉さんは少し慌てた風に救急箱を掲げた。

「ぁ…ありがとう」

俺は手当して貰った親指を握りしめながら微笑んだ。

相葉さんが、俺を気にしてる。

怪我をしたから?

それとも…

松本さんに、手を握られていたから?

それは…

ヤキモチ…なんかじゃないよね?

投稿者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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