55

ホテルを出たのは朝だった。

エレベーターの中で、頻りに口付けを交わした。

それでも外に出ると、当たり前の様に離れて歩いた。

俺の横を歩くニノから、ホテルの安いボディソープの香りがすると、自分のした事を突きつけられた気がして、妙に苛ついてしまった。

『飯…食おっか?』

気を取り直して声を掛けると、ニノは笑って頷いた。

俺は辺りを見渡し、早朝から開いている古びた喫茶店を見つけ、歩き出した。

埃が被ったドアベルがカランコロンと鳴り響く。

木の枠組みに嵌め込まれたすりガラスのドアが後ろでゆっくりと閉まった。

茶色いソファーがBOX席になって並んでいる。

囲いの代わりに造花の観葉植物が並べられていて、そのどれもに年季の入った埃がヤニに絡んで積もっていた。

昭和からこっち、長年リフォームされる事なく続いているであろう店内には、懐かしいピンクの公衆電話が置かれていた。

ニノと目を合わせて苦笑いする。

小声で

『モーニングコーヒーを飲むには渋い店になったな…悪い』

「どこだっていいよ。…相葉さんとなら…」

俺は苦笑いしたまま席に向かって歩いた。

腰を下ろすと、妙にソファーが小さく感じる。サイズ感も現代とはチグハグで何だか今の自分を重ねてしまう。

優しそうで、いかにも美味いコーヒーを淹れてくれそうな出立ちのマスターが銀色の丸めがね越しに微笑んだ。

「何にします?」

『ぁ…あぁ、モーニングを二つ』

「はい。かしこまりました。」

カウンターに消えたマスターは静かにサイフォンでコーヒーを作る。

「良い匂いだね」

ニノが小さく呟いた。

俺はピリピリしていた気持ちが一瞬にして癒えるのが分かった。

『…あぁ…良い香りだ…』

「相葉さん…」

『なんだ?』

「……後悔、してる?」

ニノは俺を見て、苦笑いする。

『してない』

「泣いたくせに」

『うるさい。』

「ふふ…俺が…守ってあげる」

俺は向かいに座るニノを見つめた。

「大丈夫…ちゃんと、守ってあげる…」

ニノが俯くから、俺は自嘲気味た笑顔でニノの手を引いた。

『頼りなくてごめん…おまえにそんな事言わせるつもりじゃないのに…ごめん』

ぎゅっと握った手が冷たくて引き寄せた手の甲に口付けた。

「あっ!相葉さん!人に見られるよ!」

『いいよ…今日は…良いんだ…おまえがそんな顔するのは俺のせいだから』

「違っ!」

『違わない…俺はちゃんとおまえが好きだよ…気づいたら、どうしょうもないくらいだ…こうなる事なんて、時間の問題だった。だから、おまえが気に病む事なんて一つもない。守るのは俺で、ニノは守られてくれれば良い。ふりだって構わないよ?俺はこんなだからさ…蓋を開けたら、結局俺はおまえに守られてるのかも知れないしな…』

そう呟いたら、マスターがトレイにモーニングのセットを乗せて現れた。

白いプレートに、トーストとサラダ、スクランブルエッグに赤いケチャップがかけられている。

俺は繋いだ手を離さなかった。

マスターはテーブルの上で握り合う俺たちの手を一瞬見つめ、呟いた。

「お似合いだね。羨ましい」

そう言って、コーヒーと、プレートを静かに置くとその場を去った。

俺は繋いだ手をジッと見つめ、頬を涙が流れるのを感じた。

間違いなんだと、誰にも気付かれないように生きていくんだと思っていた張り詰めた気持ちがゆるゆると撓む。

はぁっと短く息を吐いてギュッと眉間に力が入った。

それから、目の前のニノを見つめて、笑った。

『誰にも…渡せないな…俺、馬鹿みたいにおまえが好きだよ』

そうしたら、ニノが

泣いてしまった。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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