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潤くんの啜り泣く声が耳に入った瞬間、右の頬がガツンと熱く火を吹いた。

翔ちゃんの重いパンチが俺を殴りつけていたんだ。

俺は簡単に尻もちをついて、倒れ込んだ。

口の中に鉄臭い味がジュワっと広がって、生暖かい血が口角から溢れて顎を伝うのを感じた。

それを手の甲で拭うと、赤黒い血液が目に飛び込み、目が覚めるような、そうじゃないような悔しさと自己嫌悪が湧き上がった。

『ごめん…俺…ごめん…』

「車を出す。行くぞ」

翔ちゃんは低い声で呟き、俺に手を差し出した。

俺はその手を握り、引き上げられる。

よろめきながら立ち上がり、首を左右に振った。

『さっきの…翔ちゃんが調べてたの…場所のメモだよね?』

「あぁ…」

『俺、一人で行くから。…翔ちゃんは潤くんの傍にいてあげて』

「雅紀っ!」

『大丈夫っ!大丈夫だからっ…必ず連れて帰るよ。おーちゃんに、ここまでの状況説明だけしといて貰える?…きっと心配かけてるから。…潤くん』

俺は座り込む潤くんを見下ろした。

『相手…誰だか分かってんだよね?』

潤くんは長いフサフサの睫毛を伏せて頷いた。

相手は二人が売春まがいの商売をしていた時の客。

潤くんは客引きで、ニノはその客と寝る。その逆もたまにあったらしいが、大体はその流れで、家の貧しさや劣悪さがまさっていたニノが身体を使い、その取り分はニノが多く、公平に互いを支え合っていたらしい。

人脈のある潤くんの方が客を捕まえるのが手っ取り早かったんだろう。

相手はその時の常連で、随分ニノに入れ込んでいた奴らしい。

薄っすらと、出会った頃の記憶が蘇る。

カフェの3番テーブル。

脂ぎった中年のおっさんに両手で手を握られ迫られていた。

頭の固そうな、会社なら何か役職にでも付いているであろう風貌で、真面目な面をぶら下げてニノの事をいやらしい目で見つめていた。

俺は翔ちゃんから受け取ったメモを拳の中にしまい込み、マンションを出た。

何かあるたび

雨が降る。

梅雨空からの豪雨。

流されれば良い…

もう、何もかも…

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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