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「庵司っ!庵司っ!」

プップーッ!!

耳に響くクラクションの音を無視しながら赤信号の道を渡った。

「雪乃くんっ!!危ないよっ!!」

後ろから圭介さんがついてくる。

俺はすでに我を失って、庵司目掛けて突っ走っていた。

やっと背中を捉える。

「庵司っ!」

人混みの中呼び掛けると、ゆっくり首だけで振り返り、しっかり目が合ったのに、俺を無視した。

「ぁ…あん…じ…」

ポツンと立ち尽くす俺の肩に手が掛かる。

「はぁ…はぁ…急に走り出してっ!どーしたのっ?!」

息を切らせた圭介さん。

俺が黙って前を向くと、圭介さんも庵司の存在に気付いたようだった。

そして、次の瞬間…目を疑うような光景が…巻き起こった。

少し前を歩いていた庵司の前に、スーツの男が三人現れた。見るからに柄が悪い。

庵司は俯いて一息付くと、思い切り三人に殴りかかっていった。

驚いてヒュッと喉が鳴る。

上手く飲み込めず頭を動かしながらゴックンと唾を飲み込んだ。

庵司…喧嘩すげぇ強い

あっという間に二人をノして、残りの一人になった時、更に威圧的な男が二人現れた。

さっきまでのチンピラ風情とは雰囲気が違って見えた。

「庵司、あんまり調子に乗るなよ。始末出来たんだろうなぁ、そのお伺いだ。」

何だ…

一体何の話をしてるんだ

圭介さんが頭の上で呟いた。

「やべぇな…あれ、龍堂会の幹部だ。」

「え?何?りゅ…幹部?何?ねぇ!」

振り返って圭介さんの胸ぐらを掴んだ。

「雪乃くん!落ち着きな!」

圭介さんの服を掴んだ手を握り下される。

「ここらでシノギしてるヤクザだ。最近はあんまり話を聞かないから、知らない奴も多いんだけど…」

圭介さんでさえ、目の色が曇って恐怖を感じているように見えた。

庵司の胸ぐらを掴んだスーツの男が手を上げたかと思うと、彼の頰へ向かって振り抜いた。

吹き飛んだ庵司は尻もちをつき、口からペッと血を吐き出す。

「庵司…おまえは逃げられない。」

殴ったスーツの男が庵司の前にしゃがみ、そう呟いた。

俺は知らぬ間に足が動いていて、座り込んでいた庵司に手を貸した。

「雪乃くんっ!」

圭介さんの止める声も聞かず庵司の側に屈んで腕を肩に回した。

『離せっ!』

庵司は俺を見るなり目を見開いて怒鳴りつけた。

「ほ~…庵司…おまえの新しい玩具か?」

スーツの男が顎を撫でながら俺を覗き込む。

フラつきながら庵司が俺を突き飛ばし放った言葉。

『はぁ?知らねぇよ!こんな冴えねぇ奴』

俺は声も出ないまま立ち尽くした。

庵司は殴られたせいで切れた口の端を指先で撫でながら歩き出した。

名前を呼ぼうにも、声が出なかった。

スーツの男は俺を見て鼻を鳴らすと、庵司の後を追った。

ポンポンと肩を叩いたり、寄り添って仲間のように振る舞って去って行く。

呆然と立ち尽くす俺の後ろから声がした。

「雪乃くん…アイツ…ヤバいよ。本当に、別れなきゃ…」

「圭介さん…龍堂会って…そんなにヤバいの?」

俺の呟きに、圭介さんは溜息を吐いて近くのバーに引き入れた。

カウンター席の隅っこで俺と圭介さんは俯いていた。

先に口を切ったのは圭介さん。

「龍堂会は最近良い噂を聞かない。昔みたいにシノギが上手くいかなくなってきてるって話だ。だから薬も御法度だったのは昔の話…今は薬物、殺人…何でもするって…ニュースで見ない?最近抗争で何人か逮捕者も出てる。義理人情なんて、もう一昔前の話なんだろうね」

カランとグラスの氷を鳴らす圭介さん。

「抗争…逮捕者…」

「雪乃くん…雪乃くんさえ良かったらなんだけど…俺と暮らさない?まだ2回しか会ってないのに、変だなとは思うんだけど…俺は君が好きだよ。さっきの見て…ほっとけないと思ってる。」

俺はゆっくり圭介さんを見た。

“庵司、お前は逃げられない”

低く掠れるような声を思い出す。

庵司の顔は、まるで小さな少年が泣き出すのを我慢しているように見えた。

夢が少しずつ現実に近づいている。

庵司が居なくなり、俺は圭介さんと暮らしていて

毎日、泣いている夢。

「圭介さん…ありがとう。ごめんなさい」

俺がそう呟くと、圭介さんは肩を竦め、小さく溜息をはいた。

庵司が

泣いてる気がしたんだ。

俺を知らないと突き放して

庵司が

泣いてる気が

したんだよ。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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