22

あの日から数日が過ぎた。

生活は変わらない。

偽りの自分にスーツを着せて、ユラユラ揺れる電車に身を任せる。

確実に会社に着いて、仕事をこなし、紹介や飲み会の話を上手く断る。

庵司に出会うまでは、親に孫を見せて親孝行しなければいけないと、それなりに意気込んでそういう場所にも顔を出した。

追いつかない気持ちを置き去りに、身体だけで動いていた。

だけど…近頃じゃそれさえままならない。

“日高、最近付き合い悪りぃよ~“

そんな風に言われても、俺は皆んなと騒げる心境では無かった。

庵司が帰らない。

俺達は、一体どうなるんだろう。

何度か携帯に登録された圭介さんの番号をタップしそうになった。

既の所で思い止まった。

今日、今、すぐ、庵司が戻ってくるような気がして…自分を甘やかす事は出来なかった。

庵司の髪を撫でたい。

どうしたら、あの人は帰ってくるんだろう。

その日の夜遅く…いや、もう朝に近い時間だった。

玄関で物凄い音がして、俺は飛び起きた。

怖さのあまり、壁伝いに恐る恐る歩く。

玄関に続く廊下を行くと、入ってすぐの所で庵司が倒れていた。

「庵司っっ!!」

慌てて駆け寄る。うつ伏せに倒れ込んでいた庵司を膝に抱えて仰向けにする。

手にヌルヌルする感触を覚えて、自分の手に目をやった。

赤いようで黒い液体がプンと鼻を突いて、俺は震える手で庵司の身体に触れた。

脇腹辺りから服にグショグショと染みた液体が血だと確信して、息が止まりそうだった。

ハッハッと短く震える息を吸う。

「ぁ…あん…じっ…ねぇ…庵司っ!しっかりしてよっ!!病院っ!!ち、違うっ!救急車っ!!携帯っ!!けいっ…庵司?」

『ピーピーるせぇなぁ…』

庵司は血塗れの手で俺の手首を握った。

「だ、だって…だってっ!!凄い血が出てるよっ!!何でっ!何でいつもこんなんなっちゃうんだよっ!!死んじゃうよっ!!」

『ハッ…勝手に…殺すな…』

「病院行かなきゃっ!ねっ!庵司っ!」

『病院は…マズい…ハァッ…ってぇなぁ…』

息が上がってくる庵司を膝枕しながら、ボロボロと泣くしか出来ずにいた。

「じゃあどーすんだよっ!!庵司っ!」

庵司は黙って俺に携帯を渡した。

『かけろ。』

ハァハァと短い息の庵司が突き付けた携帯の番号を訳も分からずに押した。

呼び出し音。

一体誰に繋がるんだよ!

「ハイ」

低い男の声がヤケに冷静に響いた。

「あっ!あのっ!庵司っ!一宮庵司がっ!」

何を言えば良いのか分からなかった。

分からないままに、俺は助けを求めて、その電話の主に縋った。

「…状態は?」

「わっ分かりませんっ!とにかく血が出てて!脇腹辺りからっ!沢山殴られた痕もあるしっ!息が苦しそうでっ!」

淡々と容態を聞かれた俺は見るままの事を押し付けるように早口に喋った。

「場所は庵司のマンションで良いのか?」

「は、はいっ!!そうですっ!!」

「分かった。すぐ向かう」

電話は簡単に切れてしまった。

一体誰なのか、何処から来るのか、何も分からないままで、俺はパニックになりかけていた。

庵司にしがみついて泣く事しか出来ない。

どれくらいそうしていたかも分からなかった。

いつの間にか庵司は気を失っていた。

それに気づいた俺は、あと少しインターホンが鳴るのが遅かったら、一緒に気絶していたかも知れない。

ギリギリの神経が音を聞きつけ、庵司を床に寝かせ、慌ててインターホンに出た。

「はいっ!」

「君?電話くれたの。入るぞ」

モニターに映った男は無愛想に呟いた。

俺はオートロックを解除して中に通す。

服装は至って普通の男性。

30代後半くらいだろうか…

落ち着いた雰囲気で、俺は何故かその人を目にして意味も分からず

少し

安心していた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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