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波の音

潮風の匂い

庵司は朝が苦手だから、マンションを出たのは昼をとっくに回っていた。

白い高級車に乗って着いた海は、もう海水浴の時期を過ぎたせいで人は居なかった。

『釣りしてる爺さんくらい居ると思ったのになぁ~。あっちぃ』

手で庇を作りながら、埠頭を歩いて行く庵司。

陽が傾き始めたのに、気温はまだまだ暑い。

少し汗ばむのを感じながら、少し後ろを歩く。

ブロンドの髪がキラキラと揺れて、咥えた煙草からいつもの香りが流れてくる。

埠頭の先端まで来て、庵司は座り込んだ。

ちょうど向かいの水平線にギラギラ揺れながら太陽が沈む所だった。

「昔と…同じ?」

陽が水平線に沈むのを幼少時に見たと言っていた庵司を思い出していた。

いつもは自信に満ちた背中が、まるで少年のように儚く見える。

『同じかなぁ…ハッキリ覚えてると思ってたけど…どうなんだろ。雪乃が居るから、今の方が綺麗だな』

ねぇ

どうしてそんな風に人の心を勝手に持っていくんだよ

俺の心は

俺のモノなのに…

振り向いた庵司が苦笑いする。

『何だよ…何で泣くんだ…変な奴だなぁ』

長い足で立ち上がると俺の頭を肩に抱き寄せた。

二人並んで見る夕陽が、綺麗で、眩しくて

辛くて…

耳元で波音に混じって

確かに聞こえた。

雪乃  愛してる

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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