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「ご用件は了解しました。お品はお持ちですか?」

椅子に掛けた俺はコートのポケットから慌ててリングケースを取り出した。

『あの…これなんですが』

女性はリングを手にして真っ直ぐに俺を見た。

「お二つとも…男性物ですか?」

『ぁ…あ、はい。受けて頂けますか?』

女性は全く表情を変えない。

「えぇ。お受け致します。何と彫りますか?」

浮世離れした見た目の彼女は淡々と俺に問いかけた。

眉毛がないのがとにかく気にかかりはしたが、紙と羽の付いた万年筆が出て来たので、俺はそこに文字を書く。

“A&Y&K”

「…三人に思えます。」

女性が無表情に俺を見つめた。

『…はい…三人です。』

「…そうですか。かしこまりました。お急ぎで?」

女性は俺のメモを手に質問を投げかけてくる。

俺は不思議な雰囲気の女性に押されながらも、口を開いた。

『クリスマスに…間に合いますか?』

女性はカウンターの椅子に座る俺をジッと見下ろすと返事を返した。

「…間に合わせましょう。」

俺は料金を払い、女性に指輪を預けて店を出た。

途中何度か振り返り、店のアンティークな看板を見直す。

何度か通った事があるように思うけど…あんな店があったなんて知らなかった。

藤田くんにお礼を言わないとな。

てか…彼女も居ないくせにこんな情報には何かと詳しい耳ばかり肥えた藤田くんの将来が心配になった。

帰り道はいつもと同じスーパーで夕飯の買い物。

俺が大好きなたまごサンドを作ってくれたお礼がしたい。

雪乃は好き嫌いがあまりないから特別好きな物と言われたら、正直悩むところなんだけど、ここはやっぱり、鶏肉のトマト煮込みかな。雪乃は野菜の中でも特にトマトが大好きだ。パスタもトマトベースの物しか頼まない。

家に帰り着いた俺は一眠りしてから料理にかかった。

鍋で煮込み料理の調子を気にしながらも、今日行った店の事を思い出す。

特別に今日の夜仕上げるから取りに来いと女性は後ろ姿のまま俺に告げた。

ブロンドをキツく縛り上げた夜会巻にして、タイトなパンツスーツ姿に剃り上げた眉毛。

淡々とした口調に、物怖じしない態度。

…いや、そんなわけ…。

俺は鍋のお玉をかき混ぜながら頭を左右に振った。

浮世離れした整った顔が、庵司に見えたなんて、そんな馬鹿な話、あるもんか。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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