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雪乃が帰宅して、一緒に夕飯を食べた。
少し前にも出した料理だったけど、雪乃は喜んで食べてくれる。
何をしていても、雪乃を見ているだけで満たされるようだった。
運命の人が居るなら、きっと間違いなくこの人に違いない。
俺はどうしょうもないロマンチストな考えに自嘲して、それでも満足な自分を誤魔化せないでいた。
玄関での行ってきますのキスが自然と深くなる。
舌先を絡めると、雪乃は甘い吐息を吐いて立っていられなくなる。
腰を抱いて引き上げ、耳に甘噛みしながら囁いた。
『行く前に誘っちゃダメだよ』
「圭介…さんっ」
『行ってくるね…』
ギュッと胸元に顔を埋める雪乃。
俺はそっと首筋に唇を当て、キツく皮膚を吸い上げた。
「んぅっ…」
『寂しくないよ…眠ったらすぐ会えるから。』
白い肌に赤い跡を付けて、それを指先で撫でた。
雪乃はその指を掴み、ゆっくり口に含む。
クチュッと音をさせ、根元近くまで口に含み俺を見上げる。
下半身にダイレクトに仕返しを食らって俺は生唾を飲み込んだ。
雪乃はチュッと俺の指を唇で扱きながら引き抜くと、悪戯な目をして、囁いた。
「早く…帰ってね」
熱に浮かされたような俺は、雪乃をキツく抱きしめて黙って玄関を飛び出した。
いつからあんな顔で俺を誘うようになったんだろう。
一日中でも見張ってないと心配になる様な…そんな魅力の塊で俺を翻弄する。
深い深呼吸は、冷たい空気が身体を冷やして甘い溜息に変えた。
その足であのアンティークな造りの宝石商を訪れる。
中はやはり無人で、そこに居たのは髪がブロンドの変わらぬ姿の女性店員だった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
店員はまた同じように手のひらをカウンターの椅子に向ける。
時間を気にしながらも、俺は椅子に掛けた。
「こちらでよろしかったでしょうか。」
リングケースが開いた状態で突き出される。
俺は顔を近づけて、指輪を手に取った。
内側にきっちり三人のイニシャルが刻まれている。
『確かに。急いで頂いてありがとうございます。助かりました。』
申し訳なさそうに笑顔を作ると、無表情の女性はジッと俺を見て言った。
「どうぞ末長くお幸せに。宜しくお願いしますね」
俺は彼女を見つめ返した。
『宜しく…お願いします?』
「……私が刻印した大切な指輪の話です。何か?」
『あ、いや…すみません。大切にします。本当、ありがとうございました。』
俺はリングケースをコートのポケットにしまって、カウンターの椅子から立ち上がった。
女性は薄っすら微笑んで
「…お元気で」
と呟いた。
俺はどうしてだか、女性に向かって、手を差し出した。
『あなたも…お元気で』
女性は俺の手に触れ、冷たい握手を交わすと、また無表情になって、ルーペを手に宝石を鑑定し始めた。
ソッと店を出ると、灰色の空からはシンシンと雪が降り始めた。