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職場に着いて着替えを始める。

藤田くんが良いタイミングで入って来たもんだから、俺は早速指輪の刻印がして貰える店を紹介してくれたお礼を伝えた。

『紹介してくれた店!早速行ってきたんだ!半日程で刻印してくれて助かったよ。でも、随分古い店だったし、中はめちゃくちゃ狭いし、看板なんてアンティーク調の古いのが掛かってて…藤田くんあんな店良く知ってたなぁ』

藤田くんは黒いTシャツを被りながら眉間に皺を寄せた。

「えぇ?そんなはずないですよ?だって、1ヶ月程前に出来た新しい店ですよ?看板も古くなかったし…中は白い壁で明るくって、アレっすよ!今流行りの北欧風な店内!案外広かったっすよ?店員さんの制服可愛かったっしょ?ちょっとスカート丈短いんすよねぇ~…って…あれ?泉店長?顔色悪いですよ?」

『…うわぁ…俺、普通に店間違えたわ。あの通り、アクセサリーショップ並んでるんだなぁ…」

引き攣る笑いをする俺の背中を、藤田くんはバンバン叩いた。

「何年この街に住んでるんすか?あの通りは今、その店しかないですよ!あとはコンビニと~…あ、確かコインランドリーはあったな」

『……』

俺は口を手で覆った。

「店長?」

『…ぁ…や、大丈夫。うん、そう!そこだ!勘違い!ハハ』

「大丈夫っすか?疲れ過ぎですよ。まぁ、連日これだけ繁盛して忙しいと分かりますけどね!」

笑いながらロッカールームを出て行く藤田くんを見送った。

『…マジかよ…』

俺は軽く身震いしながら、コートのリングケースを取り出して中身を確認した。

しっかり内側に、庵司と雪乃、俺のイニシャルが刻印されている。

俺は不自然な彼女の発言を思い出していた。

『宜しくお願いしますね…お元気…で…ってあのブロンド…まさか…』

人の気配がして俺はハッと顔を上げる。

「おはようございます」

『天馬っ!…お、おはよう、足音くらいさせろよ…ビックリした』

「させてましたよ…どうしたんですか?青い顔しちゃって…って…それ…もしかして雪乃さんにクリスマスプレゼント?」

手にしていた開いたリングケースをムッと睨む天馬。

俺は隠しきれない動揺を何とか抑えながらリングケースの蓋を閉めた。

『ぁ…えっと…まぁ…そんなとこ…かな』

「案外無神経だなぁ」

バタンとロッカーを開けてリュックをしまいながらボヤく天馬。

『わ、悪い…』

コロンとコートのポケットにリングケースを落としこむ。扉を閉めて鍵をかけた。着替えをする天馬の腕にはシルバーのバングルが光ってる。

『天馬…』

「何回も振らないでください。気持ち、ちゃんと整理しますから。…側で働くくらい良いでしょ。」

俺は苦笑いして天馬の髪を撫でた。

可愛い弟のような天馬。

さっきまで考えていた事さえ忘れて笑い話が始まる。

明るくて天真爛漫な彼に、幾分か俺は確実に救われていた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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