102

Green side

ザザァーンと波の大きな音がする。

晴れてはいたけど、波が高かった。

休みを合わせてカズと二人、毎年やって来る海の街に来ていた。

もう何年も通っているけど、二人きりは初めてだ。

俺たちはもう人目を憚って手を繋がないなんて事はなかった。

暑い陽射しの中、握りしめた白い手が少し汗ばんでいる。

『あ、ほら…覚えてる?』

「ん~?何?」

『初めて来た年、ビーチバレーで砂まみれ』

「アハハ!あったあった!そんな事あったねぇ~!懐かしい!」

『それからぁ…あの向こうの公衆トイレ』

パッと隣を見下ろすと、白い肌を真っ赤に染めたカズがいた。

『ご、ごめん!デリカシー無かったね』

「…がぅ…」

『え?何?』

「違うよ!デリカシーとかで黙ったんじゃ…ない。」

釣りをした防波堤で立ち止まる。

向こうに見える公衆トイレは、若い欲望が抑えきらなかった二人が悪戯に身体を重ねた場所だ。

「あの頃…まーくんとエッチする事ばっかり…考えてたなぁって。へへ…」

恥ずかしそうに顔を赤らめながら手で庇を作り向こう側を見つめるカズ。

俺は相変わらず細いカズの腰を抱き寄せた。

耳元で囁く。

『今だって一緒だよ…カズの事ばっかり考えてる』

カズは爪先立ちで俺にキスをする。

「俺も…同じ」

時間は流れてる。

俺たちは確実に年を取った。

環境が変わって、取り巻く何もかもが少しずつあの頃と違う。

なのに不思議だった。

俺はカズが今もあの頃と変わらず大好きだ。

きっとカズも…同じ。

『もう…”普通”に憧れないの?』

意地悪に問いかける。

カズはニヤリと笑った。

潮風に黒い髮が揺れて、透き通るような琥珀色の瞳が細くなる。

「まーくん言ったじゃん、カズは一生、俺と異常でいればいいんだよって。忘れたのかよ」

細い首を傾けるカズ。

本当に敵わない。

小悪魔なツンデレは、いまや女王様のように気高くて綺麗だ。

俺は逃がさないように強く腕の中に抱きしめた。

『くふふ…言った。アレ、プロポーズだもん。カズは俺から逃げられないの』

「…逃げないよ。…俺とまーくんはずっと一緒」

『うん…ずっと一緒にいよう』

ずっと

一緒。

「あっ!花江さんがさ!明日花火大会だって言ってた!」

『マジ?!今年もタイミングばっちりだね!』

「うん…毎年…来ようね。」

『うん…あ、電話だ。』

「誰?」

ポケットで揺れる携帯を取り出した。

『あ、翔ちゃんだ』

「出なよ」

『うん。もしもし、翔ちゃん?え?何…うん…ちょっと待ってね』

俺は翔ちゃんに言われるがままにビデオ通話に切り替えた。

防波堤で二人携帯を覗く。

そこはどうやら海が見える異国の教会。

画面に翔ちゃんと松本が映り込んで

「俺たち、結婚式挙げる事にした。でさ、お前らの分も鐘鳴らすから、フライングで便乗しろよ」

そう言って、白い壁の十字架がかかった教会の鐘が映る。

向こう側に青い海が見えて、携帯を防波堤の向こうに伸ばすと海岸沿いの景色がリンクして、まるでそこに居るような感覚だった。

リーン…ゴーン リーン…ゴーン

鐘が画面の向こうで鳴り響く。

俺は片手を伸ばしたまま携帯を持ち、カズの腰を抱き寄せた。

「ふふ…何これ」

『くふふ…結婚式じゃない?』

コツンと額を合わせ、ゆっくり顔を傾けてキスをする。

離れた唇が当たり前のように呟いていた。

『幸せにするよ』

すると、カズが一度俯いて…

綺麗な笑顔で微笑みながら言った。

「これ以上ないね」

カズが返事をして、二人で画面に声をかける。

『「おめでとう!!」』

二人の声が返ってくる。

「サンキュー!おまえらも!おめでとうっ!!」

『「ありがとう」』

通話が終わると、俺はカズを抱き上げた。

カズも俺にギュッと抱きつく。

言葉は特に無かった。

あの頃みたいに、身体を必死に重ねる欲望だとか、不安だとか、全部…今はない。

それよりも大きな何か。

琥珀色の瞳が側で笑う、何か…

もっと大切な物が見えていて

俺は今もこれからも

幸せだって感じてる。

「あっ!いけないっ!花江さんに夕飯の魚買って帰るって言ってたの忘れてたっ!」

『ぁあっ!本当だっ!』

「魚屋さんまでぇ~…競争っ!!」

かなり離れた場所まで行ったカズが走り出す。

『カズっ!!ズルいっ!!』

真っ直ぐな防波堤をビーチサンダルで走る。

真っ直ぐ走る。

俺達は きっとこれからも

    真っ直ぐ走る。

END

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

libido102 最終回 Comment

  1. お疲れ様でした(^^)
    堪能しました( 〃▽〃)

    nyan

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