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二人の空気が悪くなると、まーくんは決まって俺にピアノを弾かせて歌わせた。

ピアノの椅子の端に鍵盤とは反対を向いて座るまーくん。

背中や肩が触れ合って、いつしか首筋に沢山のキスが降ってくる。

まーくんは俺にベタ惚れだから、付き合い出してからも、何度俺が浮気をしたところで許してくれた。

フリーターなんて体のいい話で、実際のところは学生をしているまーくんのヒモみたいなもんだ。

バイトは一か月と続かないし、やりたい事も特別にはない。

時折そんな自分が情けなくも感じるけど、まーくんに甘やかされている俺はどんどんと自堕落に毎日を過ごしていた。

「まーくん…お腹空いた」

ピアノを弾く手を止めると、優しくキスをしてくれて

『何か食べに行こっか』

と微笑んだ。

街は秋の風が吹いている。

カサカサに乾いた枯葉がヒラヒラ舞い散って、寂しげな色合いの絨毯を作る。

それをスニーカーで踏むと、パリパリって悲しい音がして、俺はまーくんと並んで歩きながら、気づかれないように肩を竦めた。

 

『牛丼…ハンバーガー…ラーメン?それともケーキとかが良い?』

「ぅ~ん…あ、まーくんバイトは?」

『うん、あるよ。20時から夜中までかな。夜は一緒に食べられるから』

「じゃあさ、ハンバーガーにしよ!持って帰って一緒に食べようよ」

まーくんは、また俺が可愛くて仕方ないといった具合に微笑み、髪を撫でて来る。

『よし!じゃあ、そうしようか』

まーくんと外で手を繋いだりはしない。

男も女も好きだけど、何となく世間の目。

気にならないなんて嘘でしょ。

気になるよ。

一度、映画館で手を繋がれた時、俺は分かりやすく手を振り解いた。

それ以来まーくんも外では俺に手を出さない。

ファーストフード店を入ったところで、いつだったか寝た事のある女と出会した。

不味いとは思いながらも、向こうから近づいて来たんじゃお手上げだ。

「久しぶりぃ!ニノ、連絡返してくれないからぁ!次いつデートしてくれんのよぉ~!」

「よ、よぉ!久しぶり!ちょっと忙しくってさ!ハハ」

頭を掻きながら横目でまーくんを見上げる。

まーくんは上着のポケットに両手を入れたまま、無表情にメニューを見上げていた。

「ニノ、友達?…イケメンじゃん!今度まゆに紹介してあげてよ!ダブルデート出来るし!良くない?」

「ぁ…あぁ…うん、友達!、まゆちゃん?あ~…あの子か!うん、また今度ね!」

そこで彼女の携帯が鳴り始めた。

「あ!ごめん!友達から!また連絡するから、ちゃんと出てよっ!!絶対だからね!」

「ぉ、おう!またね!」

軽く手を振ったら、彼女は携帯を耳に店を出て行った。

恐る恐るまーくんを見上げる。

『ニノ…』

「あ、はいっ!」

まーくんは、さっき家で見た悲しい笑顔を俺に向けて、呟いた。

『メニュー…どうする?』

俺は何とかやり過ごそうと、ヘラッと笑って

「テリヤキバーガーのセットにしちゃおっかな」

と言った。

お金を払ったのは勿論まーくん。

手に袋を下げて来た道を帰る。

当たり前なんだけど、少しばかり窮屈な空気。

何も言わないまーくん。

古びたハイツの玄関に銀色の鍵が差し込まれる。

ガチャンと音がして、俺はまーくんの背中を見つめていた。

まーくんはノブを捻り、扉を開くと振り返って微笑み、俺を先に中へ通した。

さっきの話題に触れないまま、二人でハンバーガーを頬張る。

ソファーを背もたれにしてテレビに向かって横並び。

目の前のローテーブルに置いたドリンクの紙コップが、沢山の水滴を垂らして、テーブルに水溜りを作っていた。

『御馳走様…じゃ、俺バイト行ってくるね』

「え?まだ早くない?」

テレビの隅に表示されている時計は6時40分。まーくんのバイトは20時からだから、まだ少し早い。

それでも、支度を整えてリュックを背負ったまーくんは、玄関で立ち止まり、振り返ると言った。

『ニノ…俺、ダブルデートとか…出来ないから…ごめんね。』

俺はドキッとして食べかけのハンバーガーを手にしたまま立ち上がった。

「ちっ!違うって!さっきのはっ!そのっ!」

まーくんは情けないような苦笑いをすると

『ニノ、先に寝ててね。おやすみ』

言い訳を聞かず

出て行ってしまった。

ガチャンと閉まった薄い玄関扉の向こうで、まーくんの足音が遠ざかる。

強張っていた身体からダランと力が抜けた拍子に、手にしていたハンバーガーから、肝心の具がボタッと床に落ちた。

「あぁ~ぁ…残念」

分かってる。

残念なのは

俺だって。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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