20

masaki

真っ暗な室内の電気のスイッチを入れて驚いた。

足に触れたのは五線が書かれた白い紙。

それも部屋一面に散らかっている。

ゆっくり屈んで一枚を手にした。

俺にはさっぱり読めないおたまじゃくしが幾つも書かれては鉛筆で塗りつぶされている。

ガサッと奥で音がして、屈んで俯いていた俺は身体を強張らせた。

「まぁ…くん?」

毎日毎日、思い出しては泣きそうになる愛しい声が俺を呼んだ。

『ニ、ニノ?』

暗がりの中、少しやつれたようなニノがフワッと微笑んだ。

「まーくん…」

俺はゴクッと唾を飲む。そして咄嗟に呟いた。

『ぅ…動かないで』

「まーくん…?」

『頼むからっ!!…そこに居て』

「…まーくん」

ギュッと唇を噛んでクローゼットまで走り、紙袋にコートやロンTをぐしゃぐしゃに詰め込んだ。

それを手に玄関まで真っ直ぐ歩いて、背中を向けたまま呟いた。

『もう…ここには居ないと思ってた』

握った拳が直立に立つ太ももの横で震える。

背中越しに聞こえるニノの声は、いつもより少し大人びて響いてくる。

「どうしてぇ?…ずっとここに…居るよ」

背後から抱きついてきて、頬擦りでもしてきそうな声に血液がブワっと踊る。

そして俺はそれを…望んでいるからどうしようもない。

フルフルと小さく頭を左右に振り、口に出さない想いを否定してから呟いた。

『そっか…じゃ、俺の荷物は少しずつ出すから。終わったら鍵…返すね…それまで…鍵、借り』

「まーくん…こっち向いて」

『………ダメ』

「まーくん、お願い。」

俺は細く息を吐き出して、ジリジリと踵を軸にニノの方を向いた。

白い肌、黒い髪、痩せた頰。

俺を見て、ニコッと笑うとニノは話した。

「まーくん、俺、今ね…ライブハウスでバイトしてんの。…曲が出来たら…ピアノで弾き語るから…見に来てよ」

手にしていた紙袋を落としてしまいそうだった。

ニノがバイトを始めた事に驚いたから?いや、それもあるけど…

俺に見に来てよなんて…。

別れた俺なんかに…。

「だから…笑ってみせて」

『ぇ?…何?』

「まーくんの笑ってる顔、見たい…見せて」

あぁ…

そうだ…

この綺麗な琥珀色の瞳が…夕陽に溶けそうだったんだ…

あのまま、光に溶けて、居なくなるんじゃないかと思ったくらい綺麗だった。

…なんて事を思い出させるんだよ…

抱きしめたい…自分から突き放したくせに…両の手が小刻みに震えた。

それを隠すように、少し首を傾けて、滲む涙を堪えながら、ニノが望む笑顔を作る。

涙は我慢し切れず、玄関の床を濡らした。

そして、自分の衝動を抑える為に、ニノから逃げるようにして

ハイツを後にした。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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