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病院の外でタクシーを拾った。

二人の間には、さっきまで喋っていたのとは比べられないくらいの沈黙が降りていた。

ハイツに…二人で住んでいた家に、二人で向かう事がこんなにも緊張するとは思わなかった。

俺の肩にはまーくんが着ていた上着がかけられている。

冷えるからと着せてくれたその上着を見つからないように引き寄せて、頰を寄せた。

タクシーがハイツの前で止まる。

俺は持っていた銀色の鍵を差し込んで玄関を開けた。

扉を持ってまーくんを待つ。

いつも逆だったね…

まーくんが鍵を開けて、俺を先に家の中に入れた。

まーくんは…あの時、こんな風に不安だったんだね。

今なら分かる。

俺がどこかへ行ってしまわないか心配で、閉じ込めるように開いた扉の中へ押し込むんだ。

今、俺がそうしているみたいに…。

まーくんが中に入ってから、ゆっくり扉を閉めて鍵を掛けた。

 

足元に散らばった楽譜を拾いながら、まーくんが笑う。

『芸術家の家みたいだね』

俺は濡れた服を着替えながら

「まーくんの家だよ…」

思わず呟いてからしまったと俯いた。

まーくんは楽譜をトントンと整えてテーブルに置いた。

それから、俺の手を引き、ピアノの椅子に座らせた。

『隣に…座っても良い?』

「もちろん」

あの頃と同じ。

俺はピアノに向いて座り、まーくんは隣に座るけど反対向き。

肩が軽く触れ合う程度の距離感。

ドキドキと高鳴る胸の鼓動は、あんまりに不規則でメトロノームの役割も果たさない。

届きますように…

どうか君に

この愛が。

ポーンと一音鳴らす。

♪~

君を騙す僕はもう居ない

信じて

君を遊ぶ僕はもう居ない

信じて

夜は怖い闇を連れてくる

君が居ればいいのになんて

都合良く寄り添って

傷つけて

愛がなかったかだって

雨音に寄せて…

It’s always darkest before the dawn.

雨が止めば…

寒くなるよと僕を抱いて♪~

鍵盤から

静かに指を離す。

少し震える指をもう片方の手で押さえつけるように握ると、身体が暖かい体温に包まれた。

「まぁ…くん…」

『綺麗なピアノのメロディだね…ニノみたい。初めてニノを見た時を思い出す…ニノ…泣きながら弾いてたよね…あの時も、恋の歌だった…』

「…まーくん」

『俺が言った事、歌詞に入ってた…なんか嬉しい』

雨が止めば  寒くなるよ

俺を抱きしめるまーくんの腕に手を掛けた。

「そうだよ…」

あの頃と違う。

泣いて歌った恋の歌とは違う。

まーくんだけを想って…描いた曲なんだ。

温かくて、優しくて、側に居なきゃダメな人。

キミを想って

作ったんだ。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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