19

大学をサボった。

初めてサボった。

燕さんはちょっと怒ってた。

何度も行くように促されたのに、言う事を聞かなかったせいだ。

夕方までホテルでダラダラ過ごして、送るよと言う彼の言葉で車に乗り込んだ。

車内は来る時同様に静かだった。

運転する燕さんを盗み見て、俺は呟いた。「初めて連れて行ってくれた港に行きたい。」

「寒いぞ」

「寒いね」

燕さんは肩を竦め笑った。

ウインカーを出して、車が方向を変える。

寒いのを承知で、少し窓を開けると、潮の香りがして、もうすぐ着くって感じながら目を閉じた。

辺りは夕方だけど、もう暗かった。

あの日みたいにザザァンと波が寄せては引く音がする。

燕さんは車から降りて煙草を咥えた。

ジッポを探すようにコートのポケットなんかをポンポンする仕草が愛おしい。

「ジッポ…俺が持ってる」

声を掛けると、燕さんは少し屈んで顔を傾けた。

シャープなフェイスラインに欲情しそうになりながら、手で囲いを作り、火を付けた。

フーっと吐き出した煙りが風に乗って舞い上がる。

俺はその隣にしゃがみ込んで膝を抱き海を見つめる。

「うちね、父子家庭でさ。離婚した原因て、ありきたりなDVなんだけど…母ちゃん、そんな家に俺と弟置いて出て行ったんだ。1年だったかなぁ…2年かも…ずっと連絡なかったんだよね。なのに、急に電話あってさ…再婚したって。弟が出来たわよって。何だか妙に浮かれてんの。何年かぶりの電話だよ?…酒乱で暴力振るうような男に子供押し付けてさ…だけど…嫌いになれなくて…そこから弟が高校辞めたり、暴走族入ったり…薬のプッシャーやって捕まったりさ、大変だったんだけど…両親ともてんで無関心。母ちゃんなんて、電話のたびに種違いの弟の自慢するわけ。出来がいいって。俺達兄弟はさ、習い事もさせて貰えなかったし、毎日酒浸りなもんだから帰って来ないのね、父ちゃん。だから、飯食うのも大変で…なのに母ちゃん、俺に言うの。昨日旅行から帰ったとか、高いブランドの時計を旦那から貰ったとか、息子が一浪したけど、良い大学入ったとか、もうさ、頭がうわぁ~って変な感じになる事ばっか言うわけ。俺なんて朝から晩までバイトしてやっと大学通ってんの。見たでしょ?さくら荘…あれ事故物件でね、なんだっけなぁ…売れない小説家かなんかが首吊って死んだらしいんだけど、超安くて…俺、結構怖がりなんだけど、そんな事言ってらんないくらい安くてね…もう即決で決めたわけ。…母ちゃんがね…一回だけ来たんだ。汚いとこだから、もう来ないって言ってた。…俺、住んでんのにね。」

一気に喋り尽くそうとする俺にコートを羽織らせ、燕さんが煙草を地面に落とし踏み躙った。

肩を抱かれ、無言で車に乗せられる。

バタンとドアを閉めて、燕さんも運転席に乗り込んだ。

「寒かったね…ごめんなさい」

燕さんは俺の頭を撫で、優しくキスをした。

柔らかな唇から愛の温度がする。

「さくら荘よりいい物件がある。見に行くか?」

燕さんは俺の頰を撫でた。

俺は知らぬ間に涙を流していて、彼の言わんとする事が読めて、胸が苦しくなった。

「同情はしない。おまえは男だし、よく頑張ってきたんだ。恥ずかしい事もないよ。ただ、俺はおまえを側に置いておきたいだけ。ただのエゴだ。…付き合えよ」

燕さんはそういうと車を走らせた。

著者

ninon

オリジナルの小説を書いていきます。 嵐さんの大ファンです。 黄色を愛でる幸せに生きています。 二宮和也Addiction... どうぞよろしくお願いいたします。 尚、このブログ作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ございません。

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